第3話 1章:初体験からの初体験(3)

「避けろ!」


 僕は思わず叫んでいた。

 テレパシーの使い方はよくわからないが、通じたらしい。


『え?』


 赤石は間抜けな声を上げた。

 それと同時に、彼女意思とは明らかに無関係に、その脚が宙を蹴った。

 僕の命令に体が反応した?


 ドォンという破裂音とともに空中で軌道を変えた赤石は、1撃目の鼻は避けたものの、2撃目がクリーンヒット。

 斜め下に叩きつけられた赤石の体は、地面を何度もバウンドした後、滑りながら僕の前へと帰ってきた。


 普通なら肉片すら残らず砕け散りそうな勢いだったが、彼女の体は全くの無傷だ。


「あいたたたた……」


 大剣を杖代わりに立ち上がった赤石の鎧に、光のヒビが入った。


 ――パリンッ。


 鎧のあちこちが乾いた音を立てて割れた。

 ただでさえ露出度高めの鎧だ。

 もはや肌色の方が多く、たわわな胸は片方丸見えである。


「あわわ……」


 慌てて手で隠す赤石に、真白さんが白い布を巻いた。


 鎧がダメージをまるごと肩代わりしてくれている?

 人類の技術では不可能だ。

 それを言うと、瞬時に鎧を着たり、生身で空を飛ぶなんでこともそうなんだけど。


「もう一度!」


 赤石は半分に砕けた盾を投げ捨て、再び空へ舞った。

 赤い光の刃出し、ダムレイに何度も斬りつける。

 その度、ダムレイの体は削りとられ、周囲に灰色の欠片を撒き散らしていく。

 それが太陽光を反射し、ダイヤモンドダストのように輝いている。


 応戦するダムレイの鼻から放たれる閃光が、周囲の地形を変えていく。

 いつ僕らのいる場所に直撃してもおかしくない。

 あんなものを喰らえば、人間どころか戦車であってもひとたまりもないだろう。


 善戦している赤石だが、どうにもジリ貧だ。


『くっ……このおおぉ!』


 それは彼女も感じていたらしく、大剣を正面に構え、ダムレイの胸めがけて突っ込んだ。


 これまでで一番大きな衝撃が大気を震わせた。

 ダムレイの胸に大穴があき、赤石は地面へと落下していく。


 背中まで貫通したダムレイの胸には、朱と蒼に明滅しながらランダムに回転する立方体が浮いている。

 あれだけの一撃にも関わらず、それは全くの無傷だった。


「あれがダムレイの心臓……?」


 真白さんのつぶやきは、僕の直感もそうだと言っていた。


 ダムレイの体はすでに再生を始めており、胸の穴もふさがっていく。


「ジュン君! アレを破壊するのよ!」


 真白さんがムチャを言う。


「できませんよ! 見たでしょ! いくら赤石でも! さっきのすごい一撃でも傷一つつかなかった!」

「いいえ、あなた自身がやるの。あなただけが、あの心臓を壊せるはず。赤石さんが戦ったことで、力が溢れているでしょう?」

「そんなバカな……」


 女の子が戦うのを見て力が湧いてくるなんて、そんなマンガみたいな――


 そう考えた矢先、僕の胸元が熱くなった。

 シャツのボタンを開けると、胸に『砲』の文字が輝いている。

 なにこれ!?

 そういえば、昨晩赤石と夜を共にしたときも、同じ場所が熱くなった気がする。


 ――ジュン君、両手を前に。


 その時、頭の中に聞き慣れた幼馴染の声が響いた。


「伊代ちゃん!?」


 思わず叫んだ僕を、真白さんが訝しげに見る。

 他の人には聞こえてない?


 ――あいつが再生に集中しているうちに! 急いで!

 

 僕は声に従い、両手を前に出した。


 ――手からエネルギーが放出されるイメージをして! アイツの心臓を撃ち抜くのを想像して!


「ど、どういうこと!?」


 ――ジュン君の好きなバトルマンガの技を出すイメージよ! 子供のころよくやったでしょ!


 それを今やれって?

 もう高校生なんだが?

 ああもうわかったよ!

 これだけ不思議なことが起きてるんだ。

 恥ずかしいとか言ってられない。


 僕は両手をダムレイに向け、そこに『気』っぽい何かが集中するイメージをした。

 すると、胸の熱が腕を通じて、手の前に集まっていくのを感じる。

 

 いける――


 根拠の無い自身とともに、僕は手のひらからエネルギーが放出されるのをイメージする。

 ただそれだけで、両手の前にバスケットボールほどの、赤く輝く球体が出現した。


「いけ……っ!」


 思わず呟いた僕の声に呼応するかのように、真っ赤な光がダムレイの心臓へと伸びた。

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