第2話 1章:初体験からの初体験(2)

「ん……」


 彼女が僕の唾液を飲み下したのと同時に、その体が熱を持ち、輝き出した。

 今朝と同じ現象だ。

 光か収まった後には、鎧姿の赤石がいた。


「「「おお……」」」


 自衛隊員達からどよめきが起こる。


「ダムレイが活動を再開!」


 隊員の上げた声により、期待に満ちた雰囲気は一瞬にして緊張へと変わった。


「赤石さんに反応した……?」


 真白さんは眉をしかめながら、スマホで撮影を始める。


「攻撃準備!」


 指揮官の声に隊員たちが一斉に動く。


「無駄よ! やめなさい!」


 真白さんの静止を聞く者はいない。


「無駄だとわかっていても、これが我々の任務だ」


 指揮官は厳しい顔でそう言うと、背中を向け、駆け出した。


 近くの車両から轟音とともにミサイルが打ち出されていく。


「全弾命中!」


 隊員の叫びが聞こえるが、土煙の中からはダムレイが一歩を踏み出す地響きが聞こえる。


「早く逃げなさい!」


 真白さんが怒鳴ると同時に、ダムレイの長い鼻から出た蒼いビームが大地をなぎ払った。


 自衛隊の車両がオモチャのように吹き飛び、熱風が襲ってくる。


 雨のようなミサイルにも関わらず、煙が晴れた先にいるのは、無傷のダムレイだ。

 正確には体表面は剥がれているのだが、その内側にある鈍く灰色に輝く硬質な体には、傷一つついていない。


「これまでと同じね。表面を焼けば再生を優先するけど、それ以上の攻撃を受けると、反撃に出る」

「冷静に解説してる場合ですか! どうするんですコレ!」


 荒野で距離感が狂うが、500メートルも離れてないんじゃなかろうか。


「『あの娘』から戦い方は聞いてないの?」

「そんな時間はありませんでしたよ」


 長い別れとなった幼馴染の笑顔が脳裏にちらつく。


「まずは赤石さんに戦うよう命令して」

「め、命令!?」

「早く!」


 あんな化け物と人間が戦うよう命令するなんて気が引けるけど……もとは他人をいじめて楽しむようなやつだ。

 良心の痛みも小さい。


「赤石さん。アイツと戦って」

「ジュン様のためなら!」


 赤石は迷うことなく頷くと、右手に大剣、左手に大盾を出現させた。

 どちらも、男ですら持ち上げるのに苦労しそうなサイズだが、彼女は軽々と扱う。


「行ってくるね」


 パチンとウィンクをした赤石は、盾を前に構えると、ミサイルよりも速く、ダムレイへ向かって飛んで行った。


「「「は!!?」」」


 その場にいた全員の目が驚愕に見開かれる。

 驚いたのはもちろん僕もだ。


 流星にも見えるその赤い光の筋は、ダムレイの顔面に激突。

 何100倍もの質量差があるはずなのに、ダムレイの体は大きくのけぞった。


「「「おぉ……」」」


 隊員達からどよめきの声が上がる。

 核ミサイルでさえ、ダムレイの体制を崩すことはできなかったのだ。


 空中で静止した赤石は、手に持つ大剣に赤い光を纏わせた。

 10メートル以上の長さとなった光の刃を、思い切り振り下ろす。


 ――ギオオオオォォッッ!


 鼓膜をつんざく叫び声とともに、ダムレイの右腕が肩からばっさり切り落とされた。

 腕が地面に落ちた衝撃と土煙が、ここまで伝わって来る。


「「「おおおっ!!」」」


 隊員達の歓声が上がった。

 中には悔しそうに顔をしかめる人もいるけど。

 自分達の仕事を、いきなりやってきた小娘にかっさわられればそういう気持ちになるのもわからなくはない。


『やったよジュン様!』


 脳に直接赤石の声が響く。

 テレパシー能力もつくのか!?


 真白さんから双眼鏡をかりて見ると、赤石はこちらを振り向いてガッツポーズをしている。


 その背後で、ダムレイは鼻で腕を拾うと、切り口へと押し当てた。

 切り口から伸びた小さな触手が、互いを縫い合わせるようにうねうね動く。

 腕の再生を待たず、ダムレイは鼻を大きく振りかぶった。


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