第23話『結果発表』


 なんだかんだで俺とクロネさんのパーティーは迷宮を一番最初に攻略してしまった。

 突然お前は何を言っているんだと思われるかもしれないが、俺だってどうしてこうなったのか理解できない。


「寄り道したからそんなに高い順位じゃないと思ったんだけどなぁ。しかし、カール様はどうしたんだ? 地図を手にノリノリだったけど……もしかして地図ありの状態で迷子になったのか?」


 地図を持ってはいるけど現在地が分からなくて迷ったとか……あると思います!

 なにせ俺も前世じゃナビを片手に「ここどこだ?」とよくなってたからな。



「……カール君の持っていた地図、偽物だったみたいですよ?」


「あれま。そうなんですか?」


「はい。そのせいでカール君の取り巻きは少し減って、なんか変な雰囲気になってました」



 なんとまぁ……カール様も災難だなぁ。

 まさか偽物の地図を掴まされていたとは。

 偽物の地図掴まされちゃそりゃゴール出来ないよね。


 大阪の地図を手に京都をさ迷うようなものだ(違うか)。




「まぁ、変な雰囲気というならこっちもそうですけどね」


「そう……ですね」



 迷宮攻略戦は終了し、脱落した生徒も含めて俺達一年生は地下広場へと集められていた。

 どうやらここで結果発表をするらしい。


 とはいえ、そんなものせずとも誰が一番に迷宮を突破したのかは知れ渡っている訳でして――



「Fクラスのやつが一位だって? あのカール伯爵のご子息のパーティーか?」


「違うみたいよ。ほら、あそこで所在なさげにしてるあの二人。あの子たちが最速で迷宮を攻略したみたいよ」


「マジか……何者だ。あいつら」


「女の子の方は確かスタンホープ家の子ね」


「凄い実力の持ち主なのか?」


「どうなのかしら。少なくともそんな話、噂でも聞いてないわね。スタンホープ家の長男に連れまわされていたのを見た事はあるけど」


「ああ、そう言えば俺も見た覚えがあるな。確か同学年に兄が居るんだったか」


「同学年どころかどちらもFクラスね」


「兄妹どっちも落ちこぼれ……と言いたいところだがこの結果を見るにそういう訳じゃなさそうだな。もしかして兄の方がFクラス入りしたもんだから妹の方もFクラスになったとかなんじゃねぇか? 兄の面子を守る為によ」


「そう言う事もあるかもしれないわね。でも、それだとここで一位を取る意味が分からない。これじゃ結局兄の面子は丸つぶれよ」


「――だな。まぁ、妹さんの方は分かった。それじゃ、もう一人のやつは?」



「どこの貴族の子息でもないみたい。平民の出よ」


「ほーう。満足な教育も受けれていないだろうによく騎士学校に入れたもんだ。で? その実力のほどは?」


「――分からないわ」


「分からない?」


「ええ。あの男の子……ビストロ君。Fクラスでは不正をして入学した男の子として有名よ」


「ああ……そういえば聞いた覚えがある。確か決闘でイカサマをした騎士の風上にも置けない奴だとか」


「そう、そのビストロ君よ。でも――」


「こうして一位を取ってる辺り、何かがあいつにはあるのかもしれない」


「――かもね。でも、この迷宮攻略でも不正を働いて一位になったのかもしれない。実際、そう言う噂も流れているわ。だから実力は未知数」


「――要注意だな」




 ――などなど。

 こんな会話がそこかしこで行われていて、正直結果発表なんてどうでもいいからはやくトンズラかましたい気分である。



「カール様は視線で人を殺せるんじゃないかってな感じでこっち見てるし……もう少しゆっくりゴールすりゃ良かった」


 とある一角からはカール様がどす黒いオーラを纏いながら俺の事を射殺すような視線で見ている。

 俺達のパーティーが一位を取った事が気に入らないらしい。


 正直、すっごく勘弁してほしい。


 そんないたたまれない気持ちで待つ事数分。

 ようやくその時は来た。


「――静かに」



 地下広場に響き渡る声。

 それを聞いて、先ほどまで口々に話していた生徒たちが押し黙る。


 俺達の前に現れたのは黒服サングラスのいかにも誰かのお付きの者という感じの男。

 男は静かになったのを見届けると静かに、しかし良く通る声で続けた。


「――これより結果発表に移る。校長、こちらへ」


「うむ」


 そうして黒服の男の後ろからこの学校の校長先生が姿を現した。


 入学式でも見かけたが、なんとも手入れに気合のかかったクルクル髭だ。そのこだわってる感は正直嫌いじゃない。



「まずは生徒諸君、お疲れ様だ。おそらく初めて迷宮攻略に臨んだ者が殆どだと思うが……どうだったかね? 力、知恵、魔法、剣、そしてチームワークなど。様々な力を試されただろう?」



 コクコクと頷いている生徒たち。

 俺の場合は迷宮攻略が初めてじゃないし、様々な力も何も基本的に速さがあれば大抵なんとかなると思っているのでその言葉はまるで響かないけど。


 それでも、なんか良い事を言っていた。


「今回、迷宮攻略者を最も多く出したクラスはAクラスだ。事前に伝え聞いているだろうがAクラスには単位を与えよう」



 地下広場の一角……Aクラスが集まっている場所では何人かが声こそ上げないものの『イヨシッ!!』といった感じでガッツポーズをとっていた。

 逆に、俺達のクラスも含め多くのクラスの生徒が肩を落とす。


 しかし――



「だが、それはAクラスしか評価しないという訳ではない。今回の迷宮攻略で君らが迷宮突破の為にした全ての行動。それらが全て評価の対象だ。迷宮攻略を為せずに散ったパーティーもそう悲観することはない。恐れを乗り越えて強敵と立ち向かう。結果敗れたとしてもその勇気は尊いものだ。ゆえに当然、本学校はその勇気も評価する」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 喜びのあまり、静かにと言われているのに雄たけびを上げる生徒数人。

 それだけ学校の評価とやらが得られるのが嬉しいのだろう。なんとも必死なものだ。


 俺? 俺は当然そんなの興味ないよ。

 評価なんていくらもらっても俺の最高速度が上がる訳じゃないしな。



「――逆に、どうせ無理だと思って迷宮攻略を早々に投げ出した者。誰かの腰ぎんちゃくとなって一片の努力も見られなかった者。ふんぞり返って自分では何もしようとしなかった者。そういう愚か者らの評価は愉快な事になっているので覚悟したまえ。そんな姿勢のままでは到底本学校に相応しい生徒にはなれぬと心得よ。それでも一切の改善が為されないのならばそれもよし。進級など夢のまた夢であろう」



「「「っ――」」」



 何人かが喉をゴクリと鳴らす音が聞こえる。

 校長の言う愚か者と呼ばれる条項に心当たりがある生徒たちのものだろう。

 気のせいじゃなければ俺達Fクラスの……特にカール様やその取り巻きが青ざめた表情をしているように見える。


「さて――迷宮攻略戦の評価についてはこんな所か。では次に今回の迷宮攻略戦、三位から順に迷宮を突破したパーティーを発表する」



 ――ざわ、ざわ



「迷宮攻略戦第三位パーティー。Aクラス『ゼルガ』『ディアス』『レストロ』『クリアンネ』『オラリス』」


「迷宮攻略戦第二位パーティー。Aクラス『アリス』『リセアラ』『ルーク』『メンラッド』『ルーゼルス』」


 三位から順にパーティーに所属しているメンバーを読み上げる校長。

 そして二位のパーティーのメンバーも全て読み終え。



「そして――迷宮攻略戦第一位パーティー。Fクラス『ビストロ』『クロネ』。以上。一位パーティーの二人のみ前に出てきてくれたまえ」


 最後に俺とクロネさんの名前が呼ばれ、前に出てくるように言われた。


「まじか……はい」

「は、はいっ!」


 そうして俺とクロネさんは同学年生徒たち観衆のもと、前へと出るのだった――


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