第07話 追放その2

 翌日、グラハムは牢屋から出され、城の大広間に引きずり出される。逃げ出せないように縛られたまま跪かされる。

 ろくに治療されていない傷口から血が溢れ、適当に巻かれている包帯代わりの布をぬらす。


 王国からきた裁判官はグラハムの様子に顔をしかめるが黙って口を開く。


「いまから、カーク伯爵謀反の件についての裁定を下す。

 カーク伯爵、貴様は領民から不当に税を徴収しそれをつかい、王国に謀反を起こそうとしていた。間違いないか」


「間違いありません」

「でたらめだ!」

 ガルバーの声とグラハムの声が重なる。

 

「カーク伯爵、貴様はしばらく黙っておれ。まずはガルバー殿の話を聞こう」


「ありがとうございます。前々からカーク伯爵領の資金の流れに疑問を持っておりました。

 このたび不正の証拠をやっと見つけ、王国に提訴いたしました。まさに危機一髪というところで王国への謀反を止めることができましたぞ」


 ガルバーは笑みを浮かべ自信満々にいう。


「デタラメをいうな!」

 グラハムはすぐ声を上げるが横にいた兵士に床に押さえつけられる。


「証拠はあるのか?」

 裁判官は、ガルバーをジロリと眺めて聞く。

 

「もちろんでございます。街代表の商人たちがおります」


 ガルバーが目配せすると、ニーナが商人たちを連れてくる。

 商人たちは街の領民代表として領主と交渉するものたちだ、商人会議をつくり街の発展に貢献している。

 その中から一人進み出てくる、体は丸々太っておりあるくだけで息が上がっているありさまだ。


「街の代表、サラムでございます。恐れながらカーク伯爵様は、以前から不当に税率を上げ、領民を苦しめておりました。

 そればかりか、われわれ商人には軍を維持するための資金を提供せよと度々、脅迫してきておりました」


「ふむ、そうか。他の商人たち。そのほうたちも同じ意見か?」


「サラム殿の言った通りでございます。我々は日々カーク伯爵様からの圧政に苦しんでおりました。このたびようやく開放されたのでございます」


 商人たちの中から一人がそう声を上げる。他の商人たちもそうだそうだと声をあげ間違いないことをアピールする。


「ふむ、どうやら間違いはなさそうであるな。…そのほうニーナといったか、カーク伯爵の腹心だったはず。そなたにも聞いておこう。この商人たちの話は事実か?」


「事実でございます。…私も長年カーク伯爵に仕えておりました。

 この度、王国へ弓引く行為を看過できず告発させていただきます」


「これらの件について、カーク伯爵。なにか申開きがあるか?」


「すべてでたらめだ! どいつもこいつも恩を仇で返すようなやつばかりだ! 貴様たちへの恨み憎しみは決してわすれんぞ!!」

 グラハムはつばを飛ばしながら激高して言い放つ。


「サラム! 貴様たちにはずいぶん便宜をはかっていた! それを忘れたか!!」


「そのようなことは一切ありませんでした。恐ろしいことです。罪を逃れようと口からでまかせをいうなど。神と王国の法を恐れぬ行為です」

 サラムはグラハムの言葉を心外だといわんばかりに切って捨てる。


「ニーナ殿が提供してくれた、不正の帳簿もここにある。証人もそろっており疑いがない。

 カーク伯爵は謀反人として爵位をはく奪する。

 しかしながらカーク伯爵家の代々の王国に対する忠勤に鑑み、死罪のところを罪を減じ王国からの追放のみとする。執行日は今日今すぐ。これを国王陛下の名のもとに宣言する」


 裁判官はそういうと、うむをいわさずさっさと退席した。

 グラハムはギリギリと歯を食いしばってその姿をにらみつける。

 

 しょせんこの裁判は茶番だ、この場で何を言っても変わらない。

 ニーナがすでに根回しをしているのだろうし、裁判官も賄賂漬けだろう。

 グラハムに打てるすべなど最初からありはしない。茶番劇が終っただけだ。


 サラムたち商人連中をみると、裁判が無事に終わってホッとしたような表情でにこやかに商人同士で談笑している。

 グラハムがにらみつけていることに気が付くと、ばつの悪い顔してそそくさと部屋から出て行った。

 

 

 グラハムは足かせを付けられ、首には縄を付けられた状態で街の中を引き回される。

 すでに街の人々は裁判の結果を知っているのか興味津々で、グラハムの姿を見ようと集まってくる。

 

 人々がグラハムを見る顔には見下した笑みを浮かべている。領主として自分たちの上に君臨した人間が犯罪者として引き回されているのが楽しくて仕方ないようだ。

 

 ある時一人の人間が、石を拾いグラハムに投げつける。

「俺たちから、税を搾り取った悪党が!」


「この犯罪者が! てめえなんぞ縛り首にでもなればよかったんだ!」


「うちらが出した税で自分だけ贅沢してくらしていたのでしょ! この卑怯者!」


「おおい! みんなこいつに石を投げてやろうぜ! こいつをみんなで反省させてやろうぜ!」


 一人が罵倒して石を投げ始めればあとは雪崩式だ、みな男も女も、訳が分かっていない子供たちまで石を拾ってグラハムに投げ続ける。

 

 グラハムは石をぶつけられ、額から血を流しながら引き回される。傷口が開き右腕からも目付近からも血を流している。そこにさらに石をぶつけられ文字通りのぼろ雑巾と化していった。

 

 

「貴様ら! 許さんぞ! 絶対に復讐してやる!」

 グラハムは周りの人々をにらみ大声て宣言する。

 

 それに対す返答は、さらなる石礫と嘲笑であった。

 

 それでもグラハムは領民たちをにらみ続ける。

 父上から受け継いだこの領都を守り、領民たちを守るため働いてきたというのに、領民たちは感謝どころか石を投げ罵声を浴びせる。

 いままでこの領地のため、領民の幸せのために心を砕いていた日々はすべて無駄であった。

 

 もはや、こいつらは倒すべき敵である。必ず復讐してやる。

 グラハムはそう心に誓った。

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