第06話 追放その1

 ニーナはランプを持ち城の地下をあるいてる、もの音一つしない中ニーナの靴音だけが響いていく。

 城の地下牢はここ何十年と使われておらず、埃っぽく乾いていた。

 やがてニーナは一つの牢屋の前に立つ。

 

「ふふっこんばんはグラハム様、生きてますか? あらそういえば、おはようございますなのかもしれませんね」

 

 ランプで牢屋の中を照らすと奥にぐったりと横たわるグラハムが見える。

 ランプの明かりに気が付いたのか顔をあげてニーナを片目でにらみつける。

 

「食事と水を持ってきました。感謝してくださいね? あなたに死なれると困りますから」

 そういってニーナは食事と称したカビの生えたパンらしきものと泥水をおく。

 

「…ニーナ、なぜ裏切った? なにがそんなに不満だった?」


「…憎しみに理由が必要? あなたの苦痛に歪む顔をみたいからというのはどう? 絶望する姿がみたいからといったらどうかしら?」


「ふざけるな!」

 グラハムは立ち上がりおぼつかない足取りで鉄格子の前に立つ。

 

「あら、右目が潰れて歩きにくそうですね。もう剣も振るえない、馬に乗ることもできない。ふふっ、あなたの未来が閉ざされていくのを見るのが面白くて仕方ありません」


「…今までのお前の態度がすべて演技だったとは、俺も父上も見る目がなかったということか」


「失せろ、この恩知らずが!!」

 グラハムは残った左目で睨みつける。


「ふふっ、そんなに邪険にしないでください。今日はよいお話をもってきたのですよ?」


「……」


「準備が整ったので、明日裁判が開かれます。内容は王国への反逆罪。グラハム様の爵位剥奪、グラハム様は良くて王国からの追放、悪くすれば斬首でしょうか」


「……」


「あれ、驚かないのですか? 残念です、教える日を楽しみにしていたのですが」


「俺に冤罪をかけ、爵位を剥奪してガルバーが後釜に座るつもりだろう。あの男のやりそうなことだ」


「あの小悪党が、俺よりおまえが仕えるにふさわしい男なのか?」


「ガルバー様の悪口はやめてくださいな。確かにあの方ははどうしようもない愚物ですが、グラハム様よりいくらかはましですよ?」


「まぁ正直いってあの方になんの興味もありませんが、目的が同じだったので利用させてもらっただけです」

 ニーナは心底どうでもよいといった様子だ。



「あんな愚物のことより、グラハム様のことです!」


「心配しなくても大丈夫ですよ。

 裁判で斬首になったとしても私が、回避させてみせます。

 

 だってこれぐらいで死なれてはつまらないですものね? もっともっと苦しんでもらわないと!」

 ニーナは楽しげに歌うようにいう。


「ああ、楽しい! こんな楽しい日々が来るなんて思いもしませんでした! グラハム様の苦痛にゆがむ顔が嬉しい、絶望する顔が嬉しい! ああなんて楽しい日々なんでしょう!」


「…この気狂いめ…」


「それでは裁判を楽しみにしていてください。それさえ終われば、もう体裁を気にする必要もないので、ゆっくりとこの世に生まれてきたことを後悔するような拷問をしてあげます。

 ふふっ楽しみにしていてください!」

 そう言い残すとニーナは足取りも軽く牢屋から立ち去っていく。


「ニィーナァ!! この恩知らずの裏切り者め! 絶対に許さんぞ!!」

 グラハムはそのニーナの背中に呪いの言葉を発するが、その声はむなしく牢獄に響いた。

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