掌編小説・『箸』

夢美瑠瑠

掌編小説・『箸』

(これは、昨日の「箸の日」に因んでアメブロに投稿したものです)



掌編小説・『箸』


 新婚の恭子は、姑のイネと折り合いが悪かった。

 イネは文字通り「箸の上げ下ろし」にまで、文句を言った。

 障子の桟を指でこすって、埃が付いているのを見せるという、よくある冗談のような嫌がらせもした。

 イネは意地が悪いが、息子の安夫は優しいいい夫だったので、なんとか我慢を重ねていた。


 ある日に、夫が出張で留守だったので、恭子とイネは差し向かいで夕飯の卓を囲んでいた。

 

 「…恭子さん、そういうのはね、「迷い箸」といって、とても行儀が悪い仕草なの。みっともないからやめてね」

 「ハイ。お母さま。気を付けます。」

 「恭子さん、それは「ねぶり箸」といって、それも無作法な仕草なの。気を付けてね」

 「ハイ。お母さま。気を付けます。」

 「それはね、「寄せ箸」。いい年して行儀打法とか何にも無知なのは格好悪いわよ」

 「ハイ。お母さま。気を付けます。」

 「「なみだ箸」と「もぎ箸」を一度にやったわね。オホホホ。いったいどういうしつけをされてきたのかしら?お嫁さん失格だわね。」

 「ハイ。お母さま」

 恭子の眼には涙がにじみ始めた。

 「今度は「そら箸」。ああら、と思ったら「重ね箸」。いったいどれだけ無作法なのかしら?苦労して育てた息子の嫁がこんな山出しの田舎者だなんて…泣きたいのはこっちよ」

 イネは憎々しげに恭子を睨んでいる。

 

 「死ね!ババア!仏壇にでも入ってな!」

 堪忍袋の緒が切れた恭子はご飯茶碗に盛大に「突き立て箸」をした。

 夫婦茶碗が音を立てて割れて、夕食の膳は無茶苦茶になった。

 

 ハシ渡し不能な救いのない夫婦離散の顛末でございました( ´艸`)



<了>




 

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