第21話 女達②

「聖夜~私が悪かったわ…謝るから、本当に謝るから戻ってきて、お願いよ」


「私が悪かったんだ、二度と裏切ったりしないから、頼むこの通りだ」


「私が悪かった…ごめん」


この人たちは何を言っているのだろう?


別に僕は怒ってもいないし、悪い事された訳じゃない。


他の人間を好きになるのが悪なんて事は絶対にない。


まして僕は、彼女達の婚約者じゃないし、恋人でもない。


ただ好きになって貰いたいから努力したに過ぎない。


努力した結果、負けたから去った。


それだけの事だ。


「別に、僕は怒ってもいないけど…しつこいから言ってあげるよ『許すよ』これで良いかな? それじゃ忙しいから…じゃぁ」


確かに男女としての扱いは酷かったが、他は問題無い。


まぁ、前世で言うなら、会社の社長が人気者で『好きな女の子を全部取られた』それだけだ。


この場合、全部取られた会社員は溜まったもので無いが、給料と福利厚生がしっかりしていたら、社長に文句等言えない。


だから、僕は恋愛で負けただけ、誰も悪くない。


「ちょっと待ってよ! 幾ら何でも投げやり過ぎない!」


「せめてちゃんと話を聞いてくれ!」


「私達が嫌いなのは解かるけど…話くらいは聞いて欲しい」


話す意味がない。


前世で好きの反対は嫌いじゃなく無関心と聞いた事があるが正に今がその状態だと思う。


袂をわけた今『どうでも良い』


「ハァ~…もう無理なんだって。謝る必要は何度も言うけど無いよ。ただ、もう一度前の関係になる事は絶対にない。悪いけどもう、命懸けで愛せない、それだけだ」


「命懸けだと」


「この際だから言うけどさぁ…普通に考えたら皆を好きになるのは地獄への片道切符だろう? 今迄はまだ大した事無かったが、此処から先は地獄なんだよ。魔国に攻め入ってたった数人で魔王を倒す、棺桶に片足突っ込んだようなもんじゃないかな。『一緒に死んでも良い』そこ迄の気持が無ければ皆とは恋愛なんて出来ない『幸せにする』そんな生ぬるい考えじゃ出来ないそう言う恋愛だったんだ。恐らく、最後は4人とも死んで終わり、そこに自分が加わる覚悟が必要なんだよ。沢山いる勇者の中でガイアは強い方じゃない、恐らく魔王所か幹部にも勝てない」


「なんで今更そんな事言うんだ? 私達はこれでも精一杯頑張っているんだ」


「そうよ、幾ら何でも言い過ぎだよ」


「そこ迄言わなくても良いじゃ無い」


仕方ない、最後だと思って付き合うか。



◆◆◆


「こんな所に連れてきて…散歩でもしたかったのか?」


「そうね、偶にはこう言う散歩も良いわね」


「うん」


何を考えているんだ…


違う、僕は彼女達を叩きのめす為に此処に来た。


彼女の親達への恩があるから、ただ死なせる訳にはいかない。


「なにを言っているんだ! これから僕と立ち会って貰おうか…三対一で構わないよ」


「冗談は止めろ…私は剣聖だ一対一でも聖夜には余裕で勝てるわ」


「私は聖女、戦いは得意では無いわ、それでも貴方には勝てる...四職なんだから!」


「馬鹿にしないで、私の魔法一発で終わりよ」


本当にそうなら僕は要らない筈だ。


三人なら勝てるそう思っているのか、本来の僕は実力では敵わない。


だが、四人相手でもガイアのパーティ限定なら勝てる。


「なら、こうしよう。もし三対一で僕に勝てたら、パーティに帰る事も真剣に考えるよ」


万が一があると困るから戻るとは言わない。


あくまで「考える」だ。


「そうか、ならばやるしかないな」


「そうね」


「幾らなんでも舐めすぎだよ」


~15分後~


「何で私の剣が通じないんだ」


「そんな、ファイヤーボールを避けるなんて」


ランゼが鞘から抜かない状態だが斬り込んでくる。


あたればこれでも骨折する。


普通の冒険者はまず躱せない。


本来の僕レベルの冒険者なら大怪我だ。


だが、ランゼ限定ならば僕の場合、話は違う。


何故なら彼女と共に戦う為に練習してきたからだ。


ランゼがどう言う風に剣を振るい、間合いが何処までか全部知っている。


連携を組む為、彼女の邪魔にならないよう、訓練してきた。


故に簡単に避けれる。


ミルダも同じだ。


どれだけ、魔法の練習に付き合ったと思っているんだ。


癖迄全部解かるんだから相手にならない。


だが、此の種は敢えて言わない。


そろそろ反撃にでるかな。


「ランゼ、下半身が甘い」


僕は足を引っかけてランゼを転ばして軽く頭を触った。


「これが剣かナイフなら死んでいただろう」


「…ああ、そうだな」


ミルダが杖を構えるが、もう遅い。


そのまま踵を返しミルダのお腹を撫でる。


「なっ」


「これがナイフなら腹を刺されて死んでいるぞ」


そして攻撃手段を持たないマリーに近づき軽く肩を小突いた。


「これが剣なら袈裟斬りで死んだな」


簡単だ、全部パターンが読めるんだから。



「そんな三人掛かりで敵わないなんて」


「どうして…」


「信じられない」


別に圧倒的に強い訳ではない。


『常に見ていたから』動きの予測が簡単につくだけだ。


もし、これが初見なら僕は確実に死ぬだろう。


「これで解かっただろう? 僕にすら勝てないんだから魔王になんて絶対に勝てない。北の勇者のパーティは寝る間も惜しんで訓練し、ダンジョンすら幾つも攻略した。いまだ、聖剣すら持たず。三対一ですら僕に勝てないパーティじゃ魔王なんて絶対に無理だ。解散して村に帰った方が良い」


「「「…」」」


「それじゃもう、僕に構わないでくれ、新しい生活を始めているんだからな」


何も返事が無いから、きっと諦めてくれたんだろう。


これでようやく一息つける。



◆◆◆


「負けたな」


「ええっ」


「清々しい位に負けましたよ」



「それでどうするんだ?」



「辞めた方が良いのかもな、旅そのものを」


「確かに聖夜にすら勝てないなら無理な話だよね」



「それでどうするんだ? マリーは」


「そうね、私はこの街の教会にでも相談してヒーラーになるわ…教会を通して言って貰えば、国も無理に旅を続けろと言って来ないと思うから」


「マリ―、私も旅を辞める、その事も教会を通して伝えて貰って良いか?」


「私も、流石に国に旅を辞めるって言いずらいから、お願いできないかな?」


「別に構わないわ」


「「それじゃ頼む(よ)」」


「解かったわ」



彼等の旅は此処で終わったのかも知れない。





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