11 少女の名前

「おい、きみ! そこらへんはへんちてて、だしじゃあぶないよ!」


 ジャンがちゅうしてやっても、しょうじょはききやしない。

 ふつうじゃなかった。シグマは、ジャンといっしょにくびをかしげた。

 シグマたちもこうがわもどると、しょうじょはロボットのじょうはんしんのそばにすわりこんでいた。


「このロボット、きみのいなのか?」と、シグマがたずねる。

「ジュズまる……それが、かれまえ


 へえ、ロボットにもまえがあるんだ。

 そりゃ、そうか。まえぐらいあるよな、とシグマはおもいなおした。


「つうかさ、そんなにくなよ」と、シグマはこまったひょうじょうになる。

 しょうじょりょうかおをおおい、ひともはばからずきだしたからだ。


「そのロボットがおそってきたんだ。おれがたおさなきゃ、こっちがころされてたんだよ」


 かおをおおったままのしょうじょていると、こっちがわるものになったみたいだ。

 きやまないしょうじょは、「そう……」とつぶやいて、ロボットのひだりむねやさしくこすった。

 ほこりがれて、〈ジュズまる〉と、くろかれているのがえた。


「あなたたちをてきだとおもったのかな。それでおそってしまった。それについてはあやまります。でもまさか、せんとうようロボットのジュズまるが、どもにけるだなんて……」


 しょうじょはやっとくのをやめてくれた。それからちあがった。


「ジュズまるは、わたしをまもようじんぼうだった。そして、たいせつともだちだった。ファンタジーごっこをやってるどもがてるあいじゃない。あなたたち、なにものなの?」


 なにものって……そりゃこっちのセリフだ、とシグマはおもった。


「あのさ、きみのほうこそ、よっぽどファンタジーごっこをしてるんじゃないのか?」

 シグマはそうかえしてやった。「ロボットとともだちだなんて……」

 するとしょうじょは、「はあぁ!?」とつよ調ちょうって、シグマをにらみつけてきた。

 それから、ふかいためいきをつく。


「まあ、いいよ。それよりさ、そとたいから、ふくってきて。ふく!」


 ふく!? こんはなにをうのかとおもったら、めいれいされた。

 シグマもジャンも、ポカンとするしかない。


くつもね。さっきのにあったはこれてあったんだけど、つぶれたみたいだから」

ふくなら、もうてるよ」

 ジャンがしょうじょぜんしんった。

「え……これのことってんの?」

 しょうじょせんしたけて、みどりいろのタイツのようなふくをゆっくりとろしていった。


「これはさ、ねむりからめるときにからだがスムーズにうごくように、てきでんげきあたえたり、まんいち、ウィルスがたいないはいりこんできたらナノマシンでりょうするためのりょうようスーツでしょうが。これだけでそとられるわけないよ。ずかしい!」


 だそうだ……。シグマはかのじょがなにをっているのか、さっぱりわからないけど。

 ジャンは……どうしたんだ、こいつ? ひどくしんけんひょうじょうで、しょうじょていた。


「おい、ジャン……おまえまさか、ホレたのかよ?」

「ちがうって!」


 りょうをぶんぶんよこにふってていするジャンのかおが、トマトのようにになる。

 リアクションがおおきい。そのほうが、かえってあやしいぞ、とシグマはおもった。

 ジャンは「ごほん」とひとつせきをして、しょうじょかくにんした。


ふくくつでいいんだね? おかねは?」

「ない。つぶれたはこのなかにカードもはいってるから。りだせないでしょ」

「カードか……。うん、わかった。おかねはとりあえず、ぼくがはらっておくよ」

「そう! ありが――」

「おいおい、てよ! なにってんだよ、ジャンは?」


 いつから、そんなにしんせつなやつになったんだ?


べつにいいんだって。シグマはすこし、だまっててよ」


 だまってろだと? なんでだよ!

 さっきは「ちがう」ってひっていしてたけど、ほんとはホレたんじゃないのか? 

 だったら、やめとけ、こんなえらそうなやつ。

 かおは……まあ、たしかにかわいいかもな。それはシグマもしぶしぶだがみとめる。

 けどさぁ、せいかくはかなりわるそうだぞ。いいのか、ジャン?

 だいたいさ、ジャンはびんぼうがくせいだろ? にんふくってやるゆうがどこにあるんだよ。

 そうおもっていたら、「シグマ、すこしおかねしてよ」とジャンがきついてきた。


「い、や、だ。なんでおれが、こいつのふくわないといけないんだよ?」


ゆうならあるでしょ」

 つよ調ちょうしょうじょがわりこんできた。


「え……なんだよ、ゆうって?」

 たずねたシグマにはさっぱりけんとうがつかない。


「あなたがジュズまるぷたつにした」

 しょうじょつめたいでシグマをにらみつけてくる。


「あれはさ、さっきせつめいしたじゃん! おれたち、ころされかけたから――」

「あなたがぬすんだそのつるぎ、わたしのあにものなんですけど! ってた、どろぼうさん?」

「やめろって、そのかた! どろぼうだなんて……このつるぎかえせばいいのか?」


 シグマはがっくりとかたとした。

 せっかく、ソーサリー・ストーンつきのつるぎれたのに……。


いいよ。ジュズまるがこんなじょうたいだから、すこしのあいだ、してあげる」

「え、ほんとに!?」

ほんとう。そ、の、、わ、り! わたしのふくだいして!」


 シグマはくちもとをきつらせた。こいつ、ちゃっかりしてやがる。

 でもまあ、ずいぶんとりっつるぎだ。

 したのほうにそうされているソーサリー・ストーンも、かなりおおきいぞ!

 これがものなら、シグマにはぜったいとどかないしろものだった。


「わかったよ。ふくだいぐらいしてやる。けどそのまえに、せめてったらどうなんだ」

 シグマがうと、しょうじょはつんとすましたかおで「たしかにね」とこたえた。


「わたしは、ローザ・オロチ・バスカヴィル。ハマナスどうめいのメンバーです」



 ――だいへつづく

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