5 マルスの厄災

 マルスのやくさい。マルスへいじんるいとのあだいにこっただいせんそうのこと。


 そのせんそうかいじんこうはんぶんにまでらされた。そうわれている。

 マルスへいこうげきでたくさんのりくがけずりられた。おかげでかいかたちまでわった。

 マルスと、それをみだしたこうがくじゅつを、ひとびとおそれた。だから、ながながい、あまりにもながかんをかけて、わざわざ便べんになることをえらんだ。そうわれている。


 れきじゅぎょうではかならずそうならう。でも、シグマはピンとない。むかしとくらべて便べんになったとおしえられたところで、そんなおおむかしのことなんてそうぞうできないから。


 じゅうねんまえだいせんそうげんいんになった、そのマルスがはっけんされた。

 マルスはほんとうきょうりょくなエネルギーだ。ものなんかに使つかわれはじめると、たしかにひとびとらしはわりはじめた。便べんなほう、便べんなほうへと――。


「で、ジャンのもくてきはなに? そのゴーグルのはなしをおれにして、なにがしたいの?」

「シグマ。ぼくといっしょに、テンルウやまってくれないか?」

「なんでだよ?」

「わかるだろ。テンルウやまには、このゴーグルみたいなだいがくぶんめいさんがまだまだいっぱい、かくされているかもしれないんだから!」


 ジャンは「たのむよ!」とつづけてった。こまったいぬのようなかおで。


だいがくれんちゅうといっしょにったら?」

いやだよ。あいつら、ぼくがどもだからって、バカにしてるんだ!」


 てんさいのジャンはだいがくしっされている。まえにそんなはなしかされたたことがあったな、たしか……とシグマはおもした。


「そりゃ、いいひともいるよ。だけど、ぼくのことをおもしろおもっていない、おとげないおとのほうがおおいんだ。ぼくはただ、はつめいになりたいだけなのに……」


 みんなが、あっとおどろくようなはつめいがしたい。ジャンはむかしからそういつづけている。れっしゃよりもはやものつくりたい。マルスのやくさいのころにはのひらサイズのでんまであったんだ、しんじられるか? そんなゆめみたいなはなしが、ふるほんにはたくさんかれている。ぶんもいつか、そんなものつくってみたいんだ――ジャンはよくそうっている。

 それがジャンのゆめだから。

 でも、そうしたはつめいにはおかねがかかる。だからジャンはだいがくはいった。


じゅうさいだいがくせいをやってさ、いろんなひとたちからちゅうもくされたり、たいされているのがわかるんだ。それはべつにいいよ。だいがくのおかねきなことをさせてもらっているんだから。

 うんざりするのは、しょうらいきょうじゅしているれんちゅうなんかが、ぼくのことをかっにライバルだとおもって、いちいちっかかってくるところなんだ。そんなやつにかぎって、ぼくのことはけっしてみとめないんだよ」

「なるほど」

 シグマもプロのぼうけんになってがついたことがある。おとって、どもがそうぞうしているよりもずっとしっぶかくて、どもっぽいってことに。


「だからさ、かえしてやりたいんだ!」

 ジャンははないきをあらくした。「ぼくのことを、バカにしているれんちゅうをさ!」

「ゴーグルがほんとうにしゃべったら、かえせるだろうな」

「だといいんだけど……」

 ジャンはくびをかしげた。「だろうね、きっと」

「なんでだよ?」

 シグマもくびをかしげる。「ゴーグルがしゃべるんだろ?」

だいがくれんちゅうがそのゴーグルのみつがついたら、またテンルウやまかうよ。それで、ほかにもさんがたくさんつかったとしよう。ぼくのはっけんは、そのたくさんあるうちの、たったひとつになる。たいしたじっせきにはならないさ。だからたのむよ、シグマ」


 ジャンは「たのむよ、たのむよ!」とくりかえしおねがいしてきた。


「テンルウやまさんのこっているのなら、ほかれんちゅうつけるよりもさきに、それをいっしょにはこびだしてほしいんだ。こんなことたのめるの、シグマしかいないんだから」


 なるほどね……。ジャンのちはわかった。でも、どうしよう? シグマはなやんだ。

 ジャンがさんあらたにはっけんしたらだいニュースになるだろう。

 ジャンのことをうとましくおもっているれんちゅうだっていちもくかざるをえないはずだ。

 シグマのぼうけんとしてのめいも、かくじつにあがる……はず。


「……オッケー、わかったよ」と、なやんだすえにシグマはこたえた。

「え、ほんとに!?」ジャンのかおがパッとあかるいがおになる。「ありがとう、シグマ!」

「このはなし、おれにもメリットがあるっぽいからな」

 シグマもがおになった。「それにさ、ジャン。おれたちはしんゆうだろ!」

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