第八話 作業厨、アレンも救出する

「こ、ここは!?」


「な、何が!?」


 2人はいきなり大自然の中に転移したことに驚いているようだ。


「レイン殿。ここは一体どこなのですか?」


 トール問いに、俺はどう答えようか悩む。

 ディーノス大森林は立ち入り禁止になってるからな~……かと言って、こういう人相手に嘘ついても、どうせバレるんだよね~。


「ここはムスタン王国のどこかにある森です。で、そこにあるのが俺の家です」


 本当のことは言わないが、嘘も言わない。こんな感じの言い方が、この状況だと最適解だと思う。


「そうなのですか……それで、ここは王都からどれほど離れた場所にあるのですか? 中距離転移ワープで行ける範囲にこんな場所はないのですが……」


 まあ、そう思うだろうな。中距離転移ワープでは精々王城近くの家に転移するのが精一杯だ。どうやっても、こんな大自然に行けるわけがない。

 ここは正直に言うとしよう。もとよりそのつもりだからな。


「王都から馬車で10日以上離れた場所にある森です。俺はかなりの手練れなので、この距離でも何とかなるのですよ」


「10日!? それほどの距離を転移できる人がいるだなんて……」


「私よりも若いのに何故そこまで……」


 まあ、驚くだろうね。この距離の転移が出来る長距離転移ロングワープは時空属性をレベル9にしないといけないのだから。


「まあ、ここにいるんだよ。あと、俺はこう見えても結構長生きしてるんですよ。なので、そう面と向かって年下のように言うのは止めてください」


 爺扱いも嫌だが、露骨に年下として扱われるのも嫌だ。

 そこら辺は謎にこだわるんだよな~俺。


「そうか。それは失礼した。となると、そなたは耳を隠すエルフか……ああ、先に言っておくが、わが国では、かの件でエルフのことを悪く思う人は少数だ。だから、安心してくれ」


「エルフのことを悪く思う人? 一体どういうことだ?」


 エルメスの言っている意味が分からず、思わず聞き返してしまった。


「昔、勇者の1人に多くのエルフが粗相を働き、結果そのエルフたちを厳しく弾圧したらしい。その名残で……て、それを知らない? てことはどういう……」


 エルメスがまた混乱しちゃった。

 ああ、あそこは聞き返すんじゃなかったな。失敗失敗。

 ここはもうごり押しで行くか。


「俺の種族はちょっと特殊なんだ。バレたら面倒なことになりそうだから、言いたくないんだ。それよりも、早く家に入って、少し休もう」


 強引に会話を終わらせると、俺は2人と共に家の中に転移した。

 てか、今思ったんだけど、地下牢から直接家の中に転移すりゃよかったな。

 何故かさっきはそこまで頭が回らなかったよ。


「よっと。取りあえず椅子に座ってくれ」


 家の中に転移した俺は、2人にリビングにある椅子に座るよう促した。

 あ、何気に靴履いたままじゃん。この家は靴を脱いで入るんだよ!

 ただ、2人の靴が思いのほか綺麗だったので、念のため浄化じょうかできれいにするだけにしておいた。そして、ここは俺も合わせとこうと思い、靴に浄化じょうかを使う。


「あ、ああ。分かった」


「ええ。ありがとうございます」


 2人は家の中をキョロキョロと見回すと、椅子に座る。


「では、早速聞きたいことがあるのですが、エルメス様とトール様はこれからどうしたいのですか?」


 そう。まずはここからだ。

 2人がこれから何をしたいのかを、ちゃんと聞いておく必要がある。


「ゼロスの罪を暴き、ゼロスを捕らえる。まずはこれを成し遂げたい」


 エルメスは力強くそう言う。

 うん。俺が言えた口じゃないかもだが、強い心を持ってるね。

 ベクトルは違えど、第三皇子のアレンと同じだ。


「分かりました。それで、俺が出来ることについてですが、主なことは転移による移動と護衛ですね」


 俺は自分に出来ることを簡単に説明した。まあ、実際これぐらいだからな。俺がやれることは。

 謀略とかはからっきし分からないんだよね。その場合は相手の記憶を見て、ゴリ押すと思う。


「ええ。レイン殿の転移は心強いです。そのお陰で、計画は直ぐに立てられそうです。それで、レイン殿の戦闘能力はどれほどなのでしょうか?」


 トールの質問はもっともだ。俺の実力によって、動き方はかなり変わるだろうからな。


「そうだな……相性の差はあれど、白騎士2人を無傷で無力化出来ますよ」


 俺の言葉に、2人は目を見開く。


「それは強いですね。剣神化を使ったグライ殿と同等の強さと考えて、計画を立てましょう」


「そうだね。早速計画を立てないと……あ!」


 エルメスは何かを思い出したかのように声を上げた。


「レイン殿。私の弟、アレンの救出を頼めないだろうか? ゼロスは家族には手を出さないと言っていたが、王位継承権を持つ男の王族をそのままにするとは思えない」


「なるほど……分かりました。では、行ってきます。幸いなことに俺はアレン様と会う許可証を持っているのですよ」


 俺は無限収納インベントリから、アレンに貰った許可証を取り出すと、そう言った。


「分かった。では、私の弟を頼む」


 エルメスはそう言うと、頭を下げた。

 どうやらエルメスは相当家族のことを大切に思っているようだ。


「分かった。では、長距離転移ロングワープ


 俺は念のため気配を消すと、ゼロスの記憶を頼りにアレンの自室に転移した。

 そこには、ベッドに寝転がりながら涙を流すアレンの姿があった。


「父上……」


 父である国王の死に悲しむアレンを見て、いたたまれない気持ちになる。

 でも、今は時間がないんだ。


「……アレン」


 俺は気配隠蔽を解除すると、そう言った。

 アレンはいきなり聞こえてきた俺の言葉にビクッとすると、顔を上げた。


「……れ、レインさん。来てくれたんですね」


 アレンは手で涙を拭い、ベッドから起き上がると、礼儀正しくそう言った。


「ああ。ただ、今は緊急事態だ。今すぐ俺の家に転移するぞ」


「い、今すぐ……いえ、分かりました。レインさんが言うなら信じます」


 アレンは俺の本当の実力の片鱗を知る人ということもあってか、何のためらいもなくここから出ることに頷いた。

 王族としてそれはダメだろ……と思いつつも、俺はアレンの肩に手を乗せる。


「行くよ。長距離転移ロングワープ


 そして、俺はアレンと共にディーノス大森林にある家の中に転移した。


「よっと。連れてきました」


 家の中に転移した俺は、リビングで話し合うトールとエルメスにそう言った。


「おお! 無事だったか。アレン」


 エルメスはアレンを見ると、安心したように息をつき、そう言った。


「エルメス兄上? どうしてエルメス兄上もレインさんの家にいるのですか?」


「ああ、アレンはまだ詳しいことを知らないのか。よし。一から説明する。よく言いてくれ」


 そう言うと、エルメスはアレンに今日起きたことを事細かに説明した。


「ゼロス兄上……バーレン教国と繋がっていたのですね。信じたくない話ですが、レインさんがそう言ったのなら信じましょう」


 アレンはゼロスのことに驚きつつも、そう言った。


「あ、でもその話が本当なら、母上に姉上たちに……他にもみんなここへ連れてこないと!」


 アレンはそう言うがエルメスは首を横に振ると、口を開いた。


「駄目だ。城にいる人が何人も減ったら、ゼロスは自身の企みがバレていると判断して、強硬策に出る可能性が高い。だから、これくらいが限度だ。ゼロスも、余程のことがない限り、王城の者に手を出すことはしないだろう。それに、レイン殿にかかる負担も考えてくれ」


 まあ、確かに王城の人が何人も姿を消したら、やましいことをしているゼロスはそう思っちゃうだろうね。

 俺にかかる負担は……まあ、ぶっちゃけその程度なら負担のうちに入らないけどね。


「分かりました。でも、こっちにはレインさんがいるので大丈夫です。レインさんは強いですから」


「ああ、そういやアレンはレインのステータスを神眼で見たのか」


「はい。思わず見てしまいまして……あ、内容は兄上にも言えません。レインさんと約束したので」


「そうか。じゃあ、聞かないでおくよ。聞くならレイン殿に直接聞くつもりだ」


「ありがとうございます。兄上」


 何か急に和やかムードになった。俺とトールは蚊帳の外だけど。

 でもまあ、こういうのって見ててなんだか心が落ち着くんだよね。

 ずっと見守ってられるって感じ。


「おっと。すまない。それでは、計画について話し合おうか」


 エルメスは俺の視線に気づくと、そう言った。

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