第七話 作業厨、2人を助ける
「待たせたな」
ゼロスは白騎士を部屋の外に待たせると、客室に入る。
客室には、やや緊迫した雰囲気でソファに座る2人の男女がいた。
1人は騎士団長、グライ。もう1人は魔法師長、シルビアだ。
2人はゼロスを見て、ソファから立ち上がると、頭を下げる。
「うむ。座ってくれ。早速だが、此度の事件の説明をしようと思う」
ゼロスはそう言って2人をソファに座らせると、自身も2人と対面するようにソファに座った。
「実は、此度の事件の首謀者はつい先ほど俺が直々に捕らえた。今は地下牢に入れている」
ゼロスの言葉に、グライとシルビアは目を見開く。
自分たちが黒い魔物を討伐しに行っている間に起きた事件がもう解決しているというのだ。ただ、どうすればそこまで早く解決できるのか、2人には分からなかった。
そんな2人の疑問にゼロスが答える。
「驚くのも無理はない。此度の事件の首謀者がここまで早く捕まったのは、その首謀者が2人とも王城内にいたからだ。だから、早く捕らえることが出来た」
「そうなのですか……それで、首謀者とは一体誰なのでしょうか? 是非教えていただきたく存じます」
シルビアはゼロスにそう問いかけた。
ゼロスはやや間を開けてから口を開く。
「それはな。宰相、トールと第一皇子、エルメスだ」
「「な!?」」
ゼロスの言葉に2人は驚愕し、声を上げた。
片や一国の重鎮、片や次期国王。
そんな2人がこの事件の首謀者だなんて、誰が予想できるだろうか。
「信じられない気持ちもよく分かる。ただ、兄上の部屋から証拠が出て来たんだ。そこに書かれていることが本当に正しいことかを詳しく精査してからにしようとも思ったが、それをしている間に何か行動を起こされたら取り返しのつかないことになると思い、捕らえたんだ。今は詳しい調査と、他に加担した人がいないか調べている所だ」
ゼロスの淡々とした説明に、グライとシルビアは落ち着きを取り戻した。そして、シルビアはゼロスに問いを投げかける。
「証拠が出て来たのは分かりました。ただ、何故エルメス様が首謀者であると思われたのですか?」
「何か手掛かりのようなものでもあったのでしょうか?」
ゼロスはエルメスの部屋から証拠が出て来たと言った。つまり、エルメスの部屋を捜索したということになる。
何故エルメスの部屋を捜索しようと思ったのか、疑問に思うのは自然なことなのだ。
「ああ。と言っても、これは本当に偶然なんだ。実は、今朝の兄上の様子がどこか不自然だったんだ。兄弟だからこそ分かる微かな変化だけどな。で、その後すぐに父上が殺された。その報告を聞いた時、俺は咄嗟に兄上のことを思い出して、まるで神に導かれるかのように兄上の部屋に行ったんだ。そして、見つけたと言う訳だ」
「そうなのですね。本当に奇跡のようなことですね……」
シルビアは何か考えるような仕草を取ると、そう言った。
「ああ。それで、そなたらにはこの証拠を元に、他にも加担した人がいないか探して欲しいんだ。現に暗殺を実行した人を捕らえられてないのでな」
ゼロスはそう言うと、持っていた資料をテーブルの上に置く。
グライとシルビアはまだ暗殺者が捕まっていないことに驚きつつも、ゼロスの言葉に頷いた。
「頼んだぞ。俺は情報統制をする。体制が整う前に国王が死んだことを他国に知られるのはマズいのでな。その関係で国民にも、事が済むまでこのことは伏せておこう」
「御意」
「承知いたしました」
2人はゼロスの言葉に再び頷く。
「では、何か進展があったら、些細なことでも報告を頼む」
ゼロスはそう言うと、客室を出て行った。そして、客室の外にいた白騎士と共に、自室へと向かった。
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「ん~ここから入れるっぽいんだけど、やっぱり鍵かかってるか」
王城の敷地内にある地下牢へ続く螺旋階段へ行く為のドアには南京錠で鍵がかかっている。
「行くか。
俺は
視認したことがない場所への転移は不可能だが、ついさっきゼロスの記憶を見たお陰で、転移することが出来たのだ。
「う~ん。結構深いな」
建物10階分ぐらい続く螺旋階段を見て、俺はそう呟く。まあ、この先には犯罪者たちを収監している牢屋があるので、万が一逃げられてしまった時のことを考慮して、この長さにしているのだろう。
「それじゃ、行くか」
そう呟くと、俺は螺旋階段を降り始めた。
螺旋階段にも見張りが何人かいたが、スルーして、通り過ぎた。
そうしてようやく下にたどり着いた。
そこには牢屋がいくつもあり、その中には見るからに犯罪者っぽい人が捕らえられている。牢屋の前には見張りが何人かおり、厳しい顔をしながらにらみを利かせていた。
うわ~辛そうだな。
この見張りたちには思わず同情してしまう。
一応記憶を見てみたが、この人たちはゼロスが何かよからぬことを企んでいるのは知らないようだ。
そんないろんないろんな意味でやばそうな場所を歩き進めると、更に下へと続く螺旋階段があった。
「この下だな」
俺はそう呟くと、再び螺旋階段を降り始める。
にしてもここは酸素が少ないな。換気はしてるっぽいけど、普通の人なら気分を悪くするだろう。
そう思いながら、俺は1番下まで来た。
そこには5つの牢屋があり、その内の2つに人が入っている。片方がトール、片方がエルメスだ。
見張りも3人おり、その人たちは椅子に座りながらぐで~んとしている。
「あ~そろそろやるか~」
見張りの1人はそう言うと、風属性の魔法を使って、地上へと続く空気穴からより多くの空気を送り込む。見た感じ、既存の魔法に若干アレンジが入ってるな。
記憶を見てみたが、この人たちもゼロスの企みは知らないようだ。
「ただまあ、悪いがあんたらは眠っててくれ」
そう言うと、俺は一瞬で3人の首筋に手刀を叩き込んで、気絶させた。
「ふぅ……トールさん。昨日ぶりですね」
俺は気配隠蔽を解除し、更に外套に付与した認識阻害を消すと、そう言った。
いきなり見張りが倒れ、俺が現れたことに2人は目を見開いて、驚いている。
「レインどの……何故ここに?」
トールは声を振り絞るようにしてそう言った。
「レイン? もしや前に父上と謁見した冒険者なのか」
エルメスはトールの言葉に反応すると、そう問いかけてきた。
「はい。そうです。何故ここに来たかについてですが、実は先ほど書庫に行くために王城に入ったのですが、そこで第二王子、ゼロスによって洗脳されている白騎士を見かけたのですよ。それで、あとは色々あって、ここに来てみたって訳です」
俺は大まかに事情を説明する。
トールとエルメスは俺の言葉に納得したような顔をする。
「そうですか。では、レイン殿に1つ聞きたいことがあります。貴方は私たちの味方ですか?」
どこか祈るような口調でトールがそう問いかけてきた。
ここでいきなり助けてくださいと言うのではなく、俺がどの立場にいるのかを聞くのは宰相らしくていいと思う。
なら、俺も正直に答えよう。
「最初に知った時は、関わろうとは思いませんでした。このことを詳しく知り、さっさと他国へ行こうと思ってました。これから面倒ごとが起きそうな国に滞在し続けたくはありませんからね。ただ、バーレン教国が関わっていると分かった瞬間、考えを変えました」
バーレン教国が出た瞬間、2人は顔をしかめた。
俺は話を続ける。
「バーレン教国は色々とヤバいらしく、あの国に好き勝手されたら、いつか取り返しのつかないことになると思い、あなた方の味方をしようと思いました。なので、俺と敵対するようなことさえしなければ、俺はずっとあなた方の味方です」
思うままに言ってみたが、これに対して2人はどう思うのだろうか。
まあ、きれいごとをつらつらと言うより印象は良いと思う。クソな権力者だったら、俺の言葉にキレているだろうけど。
「……なるほど。レイン殿らしいですね。エルメス様はどうですか?」
「そうだね。ああ言ってくれた方が、かえって信用できてしまうね。私も、レイン殿を信じよう」
どうやら俺のことは信用してくれたみたいだ。まあ、この状況じゃ信用するしかないだろうけどね。
「一先ず、それを壊そうか」
俺はまず、エルメスがいる牢屋の中に転移すると、エルメスの手足の枷を破壊した。そして、ネックレス型の身体能力低下の魔道具も破壊する。
「ありがとう。レイン殿」
「礼はここから出てから言ってくれ」
どこぞの誰かが行ったようなことを言うと、俺はエルメスと共にトールがいる牢屋に転移した。そして、エルメスと同様に拘束を解く。
「感謝する。レイン殿。それで、ここからはどうやって出るのでしょうか?」
トールの質問はもっともだ。
ここから普通に出るのなら、どうやって多くの見張りや騎士と遭遇する。
「あ~……もう面倒だしやるか。後で口封じしよ。
俺は2人の肩に手を置くと、
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今日はいつもより沢山書いた気がする。
こういう感じの陰謀系は楽しいけど、書くのはめちゃくちゃムズイ。考えることが多い。訳分かんないことを書いてないか不安になってくる。
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