第19話 事故か自殺か殺人か

「何故私の村は滅ぼされなければいけなかったの。ヒトと魔族は仲良く暮らしたら駄目だというの?」


「お前はカイネ村の生き残りか。あの作戦は俺にも謎だ。戦略的には何の意味も無い行動だった。勇者は参加して無いし作戦を知らなかった。おそらく聖女が勝手にやった事だろう。」

 それまで口の重たかったガリウスが意外にもまともな返答を返した。本当にあずかり知らない事なのだろう。

「真実を知りたいのならば、聖女に訊くしか無いだろう。」

「聖女は何処に居るの?」

「部署が違うから知らない。」

「勇者チームじゃ無いの?」

「大魔王を倒した後、勇者は一旦行方不明になった。その時点でチームは解散になった。」


「話を戻そう。」

 俺はさっきの質問を繰り返した。

「何故偽物の勇者を仕立てて大魔王を倒したのだ。」

「法国は大きくなりすぎた。我々が全てのヒトを導く為にはわかりやすい敵が必要だった。その為に融和政策を取ろうとしていた大魔王は邪魔だった。そこで我々はオーガ族を挑発する事により戦闘状態を作り出し、大魔王を殺してしまおうとした。まぁ穴だらけの策なのだがな。」

 

 そう、到底成功するとは思えない作戦だった。しかし、オーガ族は想定以上に単細胞で、勇者は強かった。あっさり大魔王を倒してしまった。

 あまりにもあっさり倒してしまった為に、魔族はヒト族の脅威では無いと言い出す者が出てきた。これだと、法国が魔族の脅威からヒト族を守っているという体が成さなくなってしまう。

 その上勇者の突然死。勇者がヒトでない事が露見するとシャイナー教団の権威が揺らいでしまう。

 シャイナー教団の権威で成り立つ法国は勇者の回収と証拠の隠滅を何よりも優先させることになった。


 そもそもシマムラが何故勇者としてでっち上げられたか。

 勇者は神のアバターだったものをヒトが使える様にしたもの。対してシマムラは勇者アバターを作るための実験機体であり、制御しているのは人工知能だった。


 ヒトが勇者アバターを使った時、過ぎた力を手に入れたヒトは抑えが効かなくなってしまった。強制停止を繰り返した結果、勇者アバターは封印されることになった。

 そういう事があった為、ある程度制御の効くシマムラを使うことになったという経緯だった。



「ところが想定外の事が起こったのだ。

 シマムラの人工知能にはある人物の人格のコピーが使われていた。

 その人物の記憶が部分的にシマムラに焼き付けられてしまったのだ。

 その結果、シマムラは無くした記憶を取り戻す事と元の世界に帰る事を目的にした。

 そんな物はありはしないのに。」


「誰も勇者に教えなかったのか?」


「我々は勇者の目的がどうあろうと、我々の目的を阻害しなければ問題では無い。逆に真実を知った方が弊害が有ると判断した。」



「なるほど。だいたいわかったけど、おたくの首脳部は馬鹿ばかりなのか。」

「聖女の勢力が、力をつけてくるとともに教団はおかしくなった。」


「まぁいいや。ジェネレーターは返すよ。姫さんは返してもらうよ。お前らはもう俺たちに構わないでくれ。

 俺たちはその聖女とやらに会いに行くとしよう。」



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