勇者殺人事件
ふたくちりょう
勇者の章
第1話 勇者は目覚めなかった。
ココはベッドから降りると大きく伸びをした。初めてこのような軽く柔らかい布団を使ったので、落ち着かなくて中々眠れなかったが、いざ眠ってしまうと朝まで目を覚ますことがなかった。
「今日の天気はどうでしょう。」
カーテンを開けると、外は雨こそ降って無いけど、どよっとした空模様だった。
このホテルの窓には板ガラスという物が使われている。ココはビンとか研究者の器具に使われているのを見た事はあるけど、こんな平面のガラスを見たのは初めてだった。
ともあれ、空気を入れ替える為に窓を開け放った。空の色は重たかったが、存外爽やかな空気が吹き込んできた。
ココは自分と勇者様の朝の支度の為水場へ水を汲みに向かった。
(魔法で水を出せれば簡単なのに。)
汲んだ水をまた3階まで運ぶのかと思ったら溜息が出た。
水場に着くと他の客の侍女や召使いが水を汲んでいた。
(何で水汲みは女性ばっかりなんだろう。)
そんな事を考えていたら背後から声がかかった。
「あら、ココさん。おはようございます。」
振り向くと客室係のアリサが立っていた。髪は少し赤みがかった薄茶色。身長は女性にしては少し高め。一般的な男性くらい。何より目力が強い。彼女に見つめられると何か見透かされている様な気がする。しかし、喋ってみると意外とフレンドリーだった。
「アリサさんおはようございます。」
「ハッキリしない天気ですね。勇者様はお目覚めですか?」
「そろそろ起きているかと思いますが、起きていなくても今日は予定が有りますので、このお水を持って行く時に起こします。」
「朝食はいつ頃お持ちしますか?」
「勇者様は先に身体を動かされると思われます。稽古が終わる頃に声をかけますのでその時にお願いします。ただ先にミルクだけお部屋へ届けてもらえますか。」
部屋へ戻ったココは勇者の寝室をノックした。
返事が無い。
(まだ寝ているのかしら。)
一瞬躊躇したが、ノブを捻りドアを押し開けた。
「失礼します。」
水瓶を机に置こうとした時、ベッドの勇者が目に入った。ココは水瓶を手から取り落とした。
動かなくなった勇者がそこに在った。
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