【第二夜 愛の記憶】

春風が桜の花弁を散らす。

 霞掛かった青空に、満開の桜は見事に映えるけれど、夜になればその薄雲は、桜と星との共演を拒んでしまう。

 かろうじて見付けた一等星から、あの辺りにはこういう星座があってね、なんていう私の話を、君は興味津々といった風に聞いてくれていたね。

 君は、朧月を指差して「今夜も月が綺麗ね」なんて言うものだから、私は照れ隠しに「いつかきっと、君の手が届くよ」と返した。


 大輪の花火が夜空を彩る。

 二人して見上げた一尺玉が消える間際、私は君の横顔を盗み見ていたんだ。

 キラキラと光を映す瞳が、何故か潤んでいた事が少し気になった。

 君は、「また、一緒に見れるかな」と、私に希望を述べた。「勿論」と答えた私の台詞の続きには、「これから先も、ずっと」という言葉があったが、その時は吞み込んだ。


 中秋の名月が空を照らす。

 まるで、私たちを引き立てるスポットライトのようだと、柄にもなく思った。

 そんな高揚感が背中を押してくれたのか、私は遂に、焦がれていた人へ想いを打ち明ける事が出来た。

 その時の私は、とてつもなく緊張していて、裏返った声の愛の言葉は、笑顔を誘発してくれた。

 これからは、ずっと一緒だ。私が君を守る。

 そんな決心を、満月に誓った。


澄んできた空気が雲を流す。

 この処、身体の調子が良くない。食欲も落ちてきて、周囲に心配を掛けている。

 意を決して、健康診断を受ける事にした。そこで不調の原因が判明したのは良かったと言えなくもないが、それは私がいつまでも君の傍には居られないという現実を突き付けてきた。

 もし、私が空へ昇る日が来たならば、君が「綺麗ね」と言った月になろう。

 そして、誰にも見られない場所に、君への想いを遺そう。

 その日が来るまで、いや、それから先だって、君を、愛しているよ。

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