第35話 平和の破壊者

「お兄ちゃん! ご飯だよーって、どうしてここにステラ様が!?」

「ノア君が気になって来たの。ノア君のおかげでマグナ達を退けられたからね」

「確かにそうですけど、まさかいるだなんて思わなくて」

「ルナ―、お腹空いたよー」

「はいはい、今渡すね」


 サンドイッチを乗せたおぼんを持ちながら立っているルナに話かけると、ポンと音を奏でながら布団の上に乗せられた。

 布団の上に置かれたおぼんに乗っている二個のサンドイッチは、とても美味しそうだ。ルナが作ったのだろうか。


「これはルナが作ってくれたのか?」


 一口食べるとレタスとハム、それにキュウリとマスタードが入っていてとても美味しい。


「そうだよ! 私がお兄ちゃんのために作ったの! 美味しいかな?」

「凄く美味しいよ。初めてルナの料理食べて嬉しい。ありがとうな」

「へへへ……喜んでくれてよかった」


 ルナは頬の軽く掻いて頬を染めている。

 照れているのだと誰が見ても分かるが、その様子を見てステラも笑顔になっているようだ。


「これが兄妹なんですね。私にはなかったことです」

「ステラ様達は仲良くないんですか?」

「蹴落としや足の引っ張り合いばかりよ。とても一般的にいう兄妹だなんて思えないわ。それが今の王族の現状なの。馬鹿みたいでしょ?」


 自虐をしながら苦笑をしているステラ。

 その姿を見たルナは「そんなことありません!」と詰め寄って声を上げた。


「この世界に生まれて奇跡の確率で兄妹になれたんですから、きっと仲良くなれるはずです! 私達だって、国に嵌められましたがこうして仲良くここにいます! だからステラ様も諦めないでください!」

「ルナちゃん……」


 涙目で言葉を発するルナを見たステラは、優しく抱きしめていた。

 ありがとうと何度も言うその顔は、どこか救われているかのように見える。


「ルナちゃんありがとう。少し救われたわ」

「ならよかったです。きっと大丈夫です!」


 ノアはその二人を見ながらサンドイッチを食べ続けていた。


「サンドイッチ美味しいな。大罪人になってからは食べてなかったから、久々だ。ここまで美味しいなんて、ルナの料理をもっと食べたいな」


 家族の料理を食べたのが久しぶり過ぎて涙が出そうになってしまう。

 家族の温かさを感じていると、リルがシェリアとクリスを連れて部屋に入ってきた。笑顔のシェリアと、暗い表情をしているクリスの対比が絶尿に面白い。


「やっと元気になったみたいだな。ステラ様やルナが心配していたぞ」

「ちょ、ちょっと! それは言わない約束でしょ!」

「リルさんは口軽いよー!」

「ひ、姫様いたんですか!? も、申し訳ありません!」


 二人から怒られたリルは、膝を抱えて部屋の隅で落ち込んでしまったようだ。

 そんな姿を見て笑っているシェリアは、クリスに何やら指示を出している。一体何をするつもりなのだろうか。


「ほら、ノアの前に立って」

「わ、分かったから……」


 シェリアに背中を押され、転びそうになりながらノアのベット横に立つ。

 そして何度か頬を掻きながら乾く唇を舐めた後に「ごめん」と小さな言葉で謝ってくる。突然謝られても困るし、なぜ謝るのか理解できない。どうしてクリスに謝られなければならないのか考えていると、シェリアが「裏切ったでしょう?」と鋭い一撃を放つ。


「私もだけど、クリスが裏切ったせいで窮地に陥ったでしょう? そのことを詫びてって言ったのよ」

「そうだったんだ。マグナも引いたし、もう謝ることないよ。だけど、もう一度裏切ったら俺はお前を殺すよ。そこは覚えておいて」

「怖いから、裏切らないようにするよ。ステラ様にも迷惑をかけちゃったしね」


 そう言いながらクリスはステラにも謝った。

 もう裏切ることはないと思うが、不可解な動きをしたら即座に斬り殺すとノアは心に決めている。


「あ、今気が付いたけどメアとアリベルさん以外全員揃っているんだ。来てくれて嬉しいけど、二人はどこにいるんだろう」


 いつの間にかノアの病室にメアとアリベル以外の全員が揃っていた。

 これも平和のおかげなのかと考えていると、汗だくのメアが勢いよく扉を開いて部屋に入ってきた。額に髪が張り付いて、肩で息をしている。何かあったのだろうか。


「ステラちゃん達ここにいたんだ! 早く村長のところに来て! 大変なの!」

「お、落ち着いて! 何があったの?」


 早い口調で説明をしようとするが、焦りからかうまく説明ができていないようだ。

 ステラが落ち着かせようとするが、上手くいかずに早く来てとばかり言っている。メアの焦りは異常だ。マグナ達がまた攻めてきているのか不安になる。


「ノア君はここにいて! みんなで行きましょう! 何か異常事態が起きていると思うわ!」


 ノアを残して全員が部屋から出て行った。

 メアの言う大変とは何だろうか。一抹の不安を抱えながら、何事もないことのを祈って待つしかないのがもどかしい。


「勝手に付いて行ったら怒られるし、待つしかないか。メアの勘違いであってくれよ」


 万全の身体にすることがステラ達にする恩返しだと、ノアは考えることにした。

 未だに痛む身体を触ると、最後にマグナに斬られた傷が目立つ。包帯で巻かれているとはいえ、触るだけで傷跡が創造できる。


「マグナの傷が深すぎるな。よく死ななかったと自分を褒めたいくらいだ」


 胸部の傷を擦っていると、外から耳を澄まさないと聞こえないほどに小さな声で何か声が聞こえてくる。初めは空耳かと思っていたノアだが、鮮明に悲鳴が聞こえたことにより、ベットから飛び起きた。


「何が起きているんだ!? ステラ達は平気なのか!?」


 待っててと言われたが、悲鳴が聞こえたのなら話は別だ。

 ノアも駆けつけて戦わなければならない。だが、手元に武器がない。マグナと戦った後にどこかに落としたみたいだ。


「あの漆黒の剣がないと何もできない……どうしたら……」


 痛む胸部を抑えながら部屋中を見渡していると、アリベルが慌てて部屋に入ってきた。


「ノ、ノア君! みんなが! みんなが!」


 息を切らし、肩が上下に激しく上下している。

 一体何があったのだろうか。外から聞こえてきた悲鳴と何か関係があるとしか思えないノアは、近くに置いていたコップに入っている水を飲んでと手渡した。


「あ、ありがとうございます……」


 一気に水を飲み干したアリベルは「飲んでる場合じゃないです!」と耳が痛くなるほどの大声で叫び始めた。


「ステラさん達が危ないんです! 私もサポートをしていたのですが、ノアさんが来なければダメだと思い来ました! 早く助けに――」


 アリベルが言葉を言い終える瞬間、窓から眩い光が差し込んだ。

 そして強大な爆風が家屋と共に二人を吹き飛ばしてしまうが、ノアは空中でアリベルを抱えて地面に着地することができた。しかし、静養していた部屋は跡形もなく消え去り、周囲には崩れた家屋が無残にも広がっていた。


「だ、大丈夫ですか! 怪我はないですか!?」

「ノア君のおかげで助かったわ、ありがとう……」


 どうにかアリベルを救えたが、さっきまで笑顔で溢れていたサレア村が地獄のようになっていた。


「誰がこんなことを……」

「マグナよ。部下を連れて急に攻めて来たのよ」


 マグナという言葉に心臓が高鳴る。

 命を懸けて退けたのに、もう攻めて来るなんて考えていなかった。とにかく早すぎる。だが、攻めて来たのなら戦うしかない。


「多分、ステラ達は戦っているんですよね?」

「戦っているわ。メアが呼びに来たでしょう? それはこの村にマグナ達が迫っているから呼んでもらったの。戦えるのはステラちゃん達だけだから……」

「そうだったんですね。なら、俺も行かないとですよ」


 待っててと言われたけど、こんな状態になったら行くしかない。

 漆黒の剣はないが、それでも行くしかない。ステラ達やサレア村の人達を救うために、ノアはもう一度命を懸けてマグナと戦い、この戦いを終わらせることを決めた。

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