第4話 塾の講師の部屋で抱き寄せられる

 先生の手が背中に回され、薄いTシャツの下のブラジャーを確認するかのようにさすっていた。私は中3のわりに胸の形は良く、大きさにも自信を持っていた。その大きな手が今は肩から頭に、そして髪の毛を優しくなでている。美容師さんに髪を触られるのと同じように、私は気持ちが良くて放心状態に陥っていた。先生にそうさせたのは、私が挑発したからに違いなかった。


 亜季は中学3年になって、受験のための学習塾に通い始めた。そこで出会った数学の講師を気に入り、個人的に話すようになった。亜季にとって、初恋の相手である小竹勇司にどことなく似ていた。その講師も10歳年下の亜季に一目置いていて、他の生徒とは明らかに違った態度で接していた。

 夏休みになって、亜季が家に遊びに行きたいと申し出ると、彼は何のためらいもなく承諾して家に招き入れた。ただその時点では、先生に特別な感情も下心もなかった。


 平塚さんは中3とは思えないくらいに大人びていて、恋人といるような錯覚を覚えた。恋愛についての悩みを聞いている内に、慰めてやりたくなって知らず知らずに横に座っていた。

「先生は彼女とキスしたり、エッチしたりするんでしょ」と訊いてきた時には驚いたが、

「それは好きな人だから、するよ。平塚さんも、いつか分かるようになるよ」と答えながら、彼女の髪の毛を撫でていた。二人切りの部屋で理性は次第に頓挫し、いつの間にか彼女を胸に引き寄せていた。


 亜季は突然立ち上がり、「私、帰ります」と言って部屋を出た。魔法から解き放たれたように目が覚めた彼は、危うく何もかも失うところだったと胸を撫で下ろしていた。亜季は自分の軽率な行動と先生を惑わせてしまった事を猛省した。同時に、どんなに聖人ぶった男でも、油断できない事を思い知った。


 少し前まではソファーに向き合って座り、ごく普通の先生と教え子の会話をしていた。しかし、話が途切れた所で、私は自分の好奇心と探求心を満たすために先生に質問をした。

「先生は、恋人がいるんですよね」と唐突に言うと、先生は驚いた顔で質問の意図を探る目をしていた。

「彼女はいるけど、何でそんな事を訊くの?平塚さんは、好きな男子がいるの?」

「気になってる男の子がいますけど、私なんか相手にしてくれないと分かっているんです」

「そんな事はないでしょ。平塚さんは話が面白いし、一緒にいて楽しいし、可愛らしいよ」と言いながら、先生が私の隣に来て抱き寄せられた。まさかそんな事をされるとは思わず、私はあわててその場から立ち去った。

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