第3話 修学旅行であこがれの同級生と歩く

 修学旅行の最終日、自由行動で班の皆とはぐれてしまった私は一人で新京極の土産店を物色していた。

「平塚さん、ひとり?」と声を掛けて来たのが、同級生の小竹君だった。小竹君はクラス代表で勉強も良くでき、私にとって好感度ナンバー1の男子だった。

「小竹君こそ、どうしたの?」と返すと、私と同じ理由で一人になったと話していた。それから二人でお土産を買って、何気ない話に盛り上がりながら四条大橋に出た。

「この下の河原はさ、恋人同士のメッカなんだって。夜になるとカップルが等間隔に座って、イチャイチャするらしいよ。平塚さんは、そういうのに興味ある?」

「そういうのって、男女交際とか?私はあんまり興味ないけど、小竹君はあるの?」と訊き返すと、彼は顔を赤くして口籠っていた。


 小竹こたけ勇司ゆうじは聖ヶ丘中学の2年生の中で、成績抜群の生徒だった。テニス部で顔は日に焼け、背は亜季よりも10㎝以上高く、黒縁の眼鏡がよく似合う少年だった。亜季は真面目そうな小竹にあこがれていたが、手の届かない存在として心の中だけ留めていた。


 平塚さんは美人という訳ではないが、ぽっちゃりとした可愛らしい女の子で、僕の好きなタイプだ。それに、物静かで利発そうなたたずまいが魅力的だ。新京極に一人でいる彼女を見つけ、思わず声を掛けていた。二人切りで歩くのは照れ臭かったが、チャンスに巡り合えたと思って勇気を振り絞った。

 四条大橋で、平塚さんもイチャイチャしたいかどうかを探ったのに、逆に問い返されて答えに窮した。

「今は彼女とか付き合う事とかは早いと思うけど、いつか彼女とこんな場所に来れたらいいなと思う」

「小竹君でも、そんな事を思ってるんだ。それじゃぁ、キスとかエッチとかもしたいの?」と直球で訊かれ、まさか平塚さんの口からキスとかエッチとかいう言葉が出て来るとは思わず赤面した。

「それは…、僕も一応男だからさ。好きになった子と、してみたいかな。でも、今じゃないよ!」

「そうなんだ!例えばだけど…私が好きな子だったら?」と恥ずかしそうに言う彼女が愛おしかった。


 修学旅行から帰って平常の学校生活に戻り、亜季と小竹は何事もなかったかのように過ごしていた。小竹は勉強と部活に明け暮れ、亜季も小竹の事はあこがれとして遠くから見つめていた。


 小竹君ともし付き合ったとしたら、手をつないだりキスしたり、セックスもするのかと妄想した事もあるが、セックスは神聖な行為であって汚してはならないものだと最近考えるようになった。また、小竹君と付き合う可能性はゼロに近く、彼がそんな事をするはずはないと信じて疑わなかった。

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