第9話 予行練習で抱き合う

 土砂降りの雨の中を和馬と帰って来て、わたしの家で濡れた体を拭き合った。二人とも下着だけで、じゃれ合いながら体に触れていた。和馬のパンツがテントを張ったようになっていて、

「どうしたの、それ?」とわたしは思わず訊いていた。和馬は恥ずかしそうに手で隠したが、それが治まる様子はなかった。わたしの下着姿を見て、どさくさに紛れて胸に触って、興奮しているのだと知れた。

「ねえ、セックスって、それがわたしの中に入って来るんだよね。どうやってするのか、知ってる?」

「うん、一応ネットで見て勉強したけど、具体的にはどうやるのか分からない」

「じゃあさ、練習してみようか。あ、でも、本当にするのは駄目だよ!ジャージに着替えてからね」


 中学3年生になって1学期の中間テストの午後、夏奈と和馬は土砂降りの雨の中を、一本の傘の中に身を寄せ合って帰って来た。和馬のワイシャツも夏奈の夏のセーラー服もびしょ濡れになり、体に張り付いて下着が透けて見えていた。夏奈は家に和馬を連れ帰り、お互いの濡れた体をタオルで拭い、ジャージに着替えた二人はベッドにもつれ込んだ。


 夏奈がベッドに誘うように仰向けになり、その体の上にぼくは覆い被さった。そして、落ち着くためにキスをし、どうすれば良いのかをしばらく考えていた。股間は相変わらず元気なままで、夏奈に押し付けるのもはばかられて腰を浮かしていた。ネットで見た女は、脚を大きく開いて男の物を受け入れていた。確かに脚を閉じたままでは難しく、夏奈の太股に手をやって思い切り開いた。


 和馬の遠慮のない大胆な行動に、夏奈は本能として男の怖さを覚えていた。

「ちょっと、恥ずかしい格好をさせないでよ!蛙みたいだよ」と文句を言う夏奈に、

「こうしないと入れられないんじゃないかな」と言いながら、和馬は股間を押し付けた。夏奈は納得するしかなく、拒む事もせずに行為を受け入れた。しかし、和馬は興奮を我慢し切れずに漏らしてしまい、夏奈に感付かれまいとあわてて体を離した。夏奈は「どうしたの?」ときょとんとしていた。


 和馬をセックスの練習だと言って誘ったのは良いが、いざとなると怖くなった。少年だった和馬の体はすっかり大人びていて、圧し掛かられた重さと堅い筋肉に男としてのたくましさを感じた。股間に男の堅い物を押し付けられた時には、今までになかった感覚が呼び覚まされていた。もし、強引にジャージと下着を脱がされて来られたら、そのままそれを受け入れていたと今になると思えた。それなのに、和馬は急に体から離れてしまい、何が起こったのか理解できなかった。


二人がそのまま抱き合って過ごしていると、夏奈の弟が帰っていてじっと二人の様子を見ていた。

小6になる弟の奈生は口止めされたにも関わらず、母親に告げ口をしていた。夏奈は和馬との行為を追及され、まだ中学生なんだからと散々説教を受けた。申し開きができる訳がなく、行き過ぎた行為だったと反省した。一方、和馬の母親も話を聞き、二人は会う事を禁じられた。和馬は母親に心配掛けるのがつらく、甘んじてそれを受け入れた。二人の仲は遠くなり、やる瀬ない思いを受験勉強に傾けた。

 夏奈は公立の桜宮高校に、和馬は工業高専に合格をした。そして、卒業式が終わってすぐに、和馬は寮へと引っ越して行った。あれ以来、二人は時折顔を合わせる事があっても、お互いに避けるようにして言葉を交わす事もしなかった。今さらながら、夏奈は寂しさと悲しさに打ちひしがれていた。

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