第11話 緊張

 店に入ると席に案内された。窓側だったので、外の様子が見えていた。メニュー表を見ながらも時々外に目をやっていると、金子と並んで歩く町田かよ子が見えた。何か楽しそうに話している様子だ。


 やはり外を見ていた才が、「町田さんと金子くんだ」と冷静に言った。が、すぐに首を傾げて、「そういえば、一ノ瀬さんがいない」と言ったが、恭一は別のことを考えていて、才の言葉を聞いていなかった。


 彼女に半券を見せられて、そして…。

 そのことを想像するだけで、息苦しいような感じがしてきた。


「あれ? そう言えば、この席、四人掛けだけど。町田さんと金子くんと一ノ瀬さん。えっと、どうすればいいかな?」


 恭一の問いに、才が溜息をつく。


「金子くんにここに来てもらって、キョウちゃんが町田さんの席に行けばいいんじゃないかな。それから、一ノ瀬さんはいなかったよ」

「え? 一ノ瀬さん、いない?」


 ようやくその点に気が付いた。それはどういうことだろう。一緒にライヴにきてくれたのではなかったのだろうか。


 やがて、二人は店に入ってきて席に案内された。かよ子が店内を見回し、恭一たちを見つけると、手を振ってきた。


「ほら。町田さん、手を振ってるじゃないか。行っておいでよ」

 才に促されて、ようやく立ち上がった。たった数メートルの距離が、やけに長く感じられた。


 二人の席に辿り着くと、金子が立ち上がり、

「矢田部。お疲れ様。じゃ、ぼくは津久見さんたちの方に行くから」

 手を振って、才たちの席へ行ってしまった。


残された恭一は、かよ子を見た。彼女は頷き、席を勧めた。


「お邪魔します」


 緊張して、テーブルにぶつかってしまった。かよ子が驚いて、

「矢田部くん。大丈夫?」

 心配そうな顔をしている。恭一は頷き、

「やだな、ぼく。かっこ悪いったら…」


 この場から逃げ出したい気持ちになった。が、そうするわけにいかないことを恭一もわかっている。


 何とか席に着いた恭一は、彼女を見ることができず、テーブルをじっと見ていた。彼女はメニュー表を見て、「どうしようかな」と楽しそうに迷っている様子だ。

 恭一は、緊張が強く、食欲がなかった。


「あれ? 矢田部くんはもう注文したの? 何か食べないと、痩せちゃうよ」

「あ…えっと…食欲がなくって」

「あんなに頑張って歌ってたのに、お腹空かないの? 大丈夫?」

「えっと…ぼくのことはいいですから、注文してください」


 かよ子だけが注文した。ウェイトレスは恭一を不思議そうに見ていたが、何も言ってはこなかった。

 お冷に口を付けて、気持ちを落ち着かせようとしたが、あまり助けにはならなかった。が、ずっとこうしているわけにもいかない。


 恭一は覚悟を決めて、口を開いた。

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