第9話 家族

 ベッドに入ってから、才と出会った頃のことを思い返していた。


 二年前、同級生に誘われて行ったライヴハウスで、才たちの演奏を初めて聞いた。その頃は、まだ別の人がヴォーカルをしていたが、いろいろあってその人がやめた後、何故か恭一が次のヴォーカルに選ばれた。


 母は、恭一が才の名字を伝えた時、かなり動揺していた。母は、結婚前の才の父と恋人だったが、当時の社長だった人に娘と結婚してほしいと言われ、母と別れてその人と結婚したらしい。その人が才の母親だ。が、その人は才が小さい頃に亡くなってしまった。母との関係が復活したのはその後らしいので、浮気ではないのだが、母に遠慮の気持ちがあったのだろうか。子供が出来たとは告げずに、連絡を断った。


 恭一と才は異母兄弟ということになる。それを、親切なこの家の人たちは知っているのだろうか。知っているとしたら、いい気はしないだろう。だから、この家に来た時はいつも、彼らを裏切っているような、そんな気持ちになってしまうのだ。

 

 恭一は、生まれのせいもあって自分に対して否定的な所があるが、才にもその傾向があった。それに気が付いた恭一が指摘して、「自分を嫌うのをやめよう」と、お互いに決めた。そして、それはかなり上手くいっていた。それが、母が亡くなってから先、以前のような暗い感情が復活してしまったのだ。


 考え始めると止まらなくなり、変に頭が冴えてしまった。全く眠れずに、朝を迎えた。


 朝食の時間に間に合うように、身支度を済ませてから部屋を出ると、ちょうど才も出て来たところだった。彼は軽く手を振ると、「おはよう」と言った。恭一も挨拶をして、二人並んで食堂に行った。


 車で送ると才は言ってくれたが、徒歩で駅まで行くことにした。距離はあるが、歩けない程ではない。


 歩きながら、昨日あったことやこれまでのことを考えていた。が、あの家を離れたせいだろうか。徐々に、町田かよ子について考える時間が多くなっていった。


(町田さんはライヴに来てくれるのかな…)


 その日が待ち遠しいような、永遠に来てほしくないような気持ちだった。




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