自称おっさんに振られた




「ごめん、歩きスマホする人無理なんだ」


告白したら、即レスで振られた。


「なんでですか!?」


「自分から防御力と回避率下げてる奴に背中預けられないだろ」


何を言っているんだ、と返される。


「君、顔いいんだからこんなおっさんでなくても選り取り見取りだろう」


先輩は自分をおっさんと言う。

先輩は確かにアラサーだ。

だが、先輩は女性なのでおっさんにはなれない。




振られるとは思っていなかった。

出勤時、思わずため息が出た。

不意に脇腹を突かれた。驚いて、振り向くとそこには先輩が。


「お早う」


「お、お早うございます」


可愛い悪戯に動揺してしまう。


「今のがナイフだったら、死んでたな」


さらりと言われ、俺はスマホを手から落としそうになった。


「直します!」


頑張れ若者、と期待してなさそうに応援されたので、絶対直すと決意した。




「なんで、こんなおっさんに血迷ったんだ?」


おもむろに訊かれた。

照れながらも、少しでも気持ちが伝わればと答える。


「先輩、必ず手を合わせていただきますとかするでしょ。何だかいいなって……」


「そんな当たり前のことで?」


当たり前と言うが、今まで付き合った彼女はしなかった。そんな仕草がいいと感じた。

だが、先輩には全く伝わらなかった。




会社の飲み会でやけ酒気味に飲んだ翌朝、知らない部屋で目が覚めた。

身を起こすと、ドアが開いた。


「気分はどうだ」


オフィスカジュアルのいつもの先輩がいた。


「平気です」


「パン焼くが、食べるか?」


二日酔いもないから頷くと、トーストと牛乳を出された。

先輩はマーマレードを塗って食べている。テーブルにジャムなどが置かれていた。

とりあえず、苺ジャムを塗って食べながら部屋の様子を窺う。ぬいぐるみがいつか並んでいて、その隣に十何本の刀が。


「アレは?」


「オタクの部屋にフィギュアがあるのは当然だろう」


刀はフィギュアじゃない。

先輩は朝食を終えると、テーブルに鍵を置いた。


「もう出勤するが、勝手に出るといい。浴室も入るなら使え」


「ちょっと待ってください!?」


「なんだ?」


「無用心過ぎません!? 鍵預けるし、泊めるし!」


「部下を見捨てる上司がいるか」


意識されていない事実に苛立ち、声を荒げた。


「下心ある奴を泊めるなんて危ないでしょう!?」


「そうなったら、暴行で被害届を出して君が社会的に死ぬだけだ」


冷静な対処を答えられ、絶句する。


「じゃあ、行ってくる」


目の前で玄関のドアが閉まった。

なんかもう先輩に勝てる気がしなくなった。



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