求む! スタイリッシュな生徒の振り方




「私、先生が好きです。異性として」


生徒に告白をされた。

数学準備室で、数学の質問を終えた後に。

教師になって数年、嫌いな奴が多い数学を担当していたから想定していなかった。科目が嫌いだと担当する人間も嫌いになるのが世の常だ。

しかも、呼び出された訳でもなく、恥じらう様子もなく退出の挨拶のついでに告白された。

どう対処すればいいか分からず俺は固まる。


「ああ、大丈夫です。言いたかっただけなので、これからも生徒としてよろしくお願いします。ただ、卒業後にもう一度だけ告白させていただきます」


言うだけ言って、彼女はあっさり退出していった。

理解が追いつかず、しばらく呆然とし、自分のデスクに突っ伏した。


いつ何がどうしてそうなったか証明してくれ!


こんな時ばかりは数式が役に立たないと感じた。告白されるような気配は微塵もなかった。

彼女は進学コースの理系クラスで真面目な生徒だ。よく数学準備室に質問にくる数少ない来訪者だった。

放課後の数学準備室で二人きりになることはあったが、雑談など一切なく会話は質疑応答と挨拶だけ。

要因が皆目検討もつかなかった。本気ならば教師としてきちんと断らなければならない。

経過観察をしようと、しばらく様子を見てみたが……


何も変わってねぇ。


告白がなかったのではと錯覚するほどに。

あまりにも変わらなさ過ぎるので、珍しく俺から話しかけた。


「何で俺なんかを好きになったんだ?」


言ってから失言に気付く、唐突すぎるし脈絡も一切ない。文系の奴らは一体どうやって話の流れを作っているんだ。

勉強をしていた彼女が手を止めて、内心狼狽える俺の方に向いた。


「以前、虚数の話をしてくれたでしょう」


「ん? ああ」


記憶を辿って、確かに授業中、生徒が話を聞いていないのをいいことに俺の持論を語ったことがあった。

存在しない虚数をiで例えるのは、主観がないと世界が見えないように、自分がいて初めて存在できる世界があるようでもあり、愛情があって初めて証明できるものがあるようで面白い、と随分青臭いことを言った。

どうしよう。思い返すとかなり恥ずかしい。


「そんな素敵な考えをする人の世界はどんな風に見えるんだろうって。それで意識し始めました」


「別に普通だ」


顔が熱くなり腕で顔を隠す。

聞くんじゃなかった。

授業を真面目に聞いている生徒がいたことも、考えを馬鹿にしなかったことも嬉しかった。


どう断るかを悩み続けて迎えた卒業式。

返事は、


「ゆ、友人からで」



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