第18話

 花火大会の会場になっている運動公園にはすでにたくさんの人々で賑わっていた。

 特設されたステージには司会進行役のアナウンサーが何かを喋っており、何やら催し物が行われている。

 周りを見渡すと、全体が陸上トラックを沿うような形で楕円状に出店が立ち並び、食べ物や遊戯を求めて多くの人が列を成していた。

 そんな中で白花桃花はというと…


「あ、あっつ!」


 玉城裕に奢ってもらったたこ焼きを美味しそうに頬張っていた。


「全財産の六分の一がなくなってしまった……」


 小学生にとっての五百円はかなりの大金だ。

 白花桃花に奢ってやると言った手前、後には引けない状況ではあったが、せっかく貯めたお小遣いがごっそり持っていかれるのはやはり心に来る何かがある。

 

「玉城くんもたこ焼き食べる?」

「いや、俺は……」

「はい、あーん」

「ん?! あ、あっっっつ!!!」


 白花桃花の容赦ない物理的なツッコみにより、口に入ったたこ焼きを危うく吐き出しそうになってしまう。

 玉城裕は涙目になりながらもなんとか完食すると、すぐさま抗議を入れる。


「ば、バカじゃないのか!? 火傷するところだったじゃないか!」

「でも、火傷しなかったんでしょ? なら、いいじゃん」

「よくねーよ! って、なんか喉乾いたな……。桃花ちゃんも何か飲む?」

「うん!」


 出店で飲み物を購入した二人は、途中で焼きそばも二つ買った後、遊具がある併設された公園へと向かう。ここなら、ベンチもいくつかあって、落ち着いて食事を摂ることができる。花火が打ち上がるまでの間に二人は雑談を交わしながら、淡々と焼きそばを食べていく。


「ふぅ……ごちそうさまでした」

「たこ焼き食べてたのによく焼きそばも入ったな……」


 そんな小さい体のどこに入るのだろうかと不思議に思う玉城裕。


「せ、成長期なだけだもん! そーいう玉城くんは逆にあまり食べてないじゃん」

「いや、食べてるけど……」


 一応、さっきの焼きそばは二つとも大盛りサイズだ。それなりに量もあって、成人男性ですらようやく食べ終えるくらいの量を食べていないと白花桃花は言っているのか? どちらかわからないにせよ、それ以上の反論は危険と結論づけた玉城裕は持ってきていたスマホの画面を覗き込む。


「あ、そろそろ花火が打ち上がる時間帯だな。桃花ちゃん。昼間に話した秘密基地、覚えてる?」

「うん」

「今からそこに案内してあげるよ」

「え、けど、花火……」

「いいからいいから! ここよりもっと綺麗に見えるところがあるから!」


 玉城裕は白花桃花の手を取ると、さっそくその秘密基地とやらの場所まで案内して行った。



 花火大会の会場である運動公園を離れ、やって来たのは周りが草むらに覆われたところだった。

 一部だけ開けたところがあり、目の前には川が流れている。街灯の光もほとんどなく、ただ虫の鳴き声だけが響くこの場所が本当に秘密基地なのだろうか。白花桃花は多少不安になりながらも地面に座った玉城裕の隣に腰を下ろした。


「何もないけど……本当にここで大丈夫なの?」

「ああ、一年に一度だけの秘密基地……というよりかは特等席と言った方がいいかもね」

「特等席?」

「うん、まぁ、見といてよ」


 そう言われて、白花桃花はしばらくの間じっと夜空を見上げる。今日は雲一つない晴天だったからか、星が綺麗に顔を覗かせていた。


「あ、花火上がったから見て!」


 唐突な玉城裕の声に驚きつつも、言われるがまま見上げる。

 すると、暗い空のキャンバスに一面の大きな花が咲いた。


「綺麗……」

「ね、ここ特等席でしょ? あの運動公園だと人が多過ぎてあまり綺麗に見れないからさ」


 玉城裕の言葉をようやく理解したのだが、続けて川の方に指をさす。


「ほら、こっちも綺麗じゃない?」

「うわぁ……本当だ。綺麗……」


 夜空に咲く花を反射して川の水面に浮かぶその姿はまるで二つの花火を見ているようだった。

 空と水があるからこそ、花火を通常よりも二倍楽しめる……。たしかに秘密基地だなと確信する白花桃花。


「この場所知ってるのって、玉城くんと私、だけ……?」

「ううん、あともう一人知ってるよ。去年、転校して行った幼馴染とよく毎年この時期に来てたからね」


 二人だけの秘密じゃなかったことに少し残念に思ってしまう白花桃花。

 夜空と水面には無数の花火が咲き誇り、辺り一面が芸術作品のようになっていた。


「ねぇ、桃花ちゃん」

「ん?」

「よかったらなんだけど、来年も一緒に行かない?」

「え……え?!」

「一人で花火大会に行くのは気まずいというかさ、やっぱり誰かと一緒の方が楽しいじゃん? だからなんだけど……」


 いくら花火で周辺が少し明るくなったとはいえ、玉城裕の現在の表情はよく見えなかった。

 告白されているようなセリフに白花桃花は軽く緊張していた。


「う、うん……機会があったら、だけど……」

「本当に?! じゃあ、約束だからな!」

「うん!」


 しかし、翌年以降の約束は守ることができなかった。祖父母が当時住んでいた地域に引っ越すにあたって、玉城裕が住んでいる街に行くことがなくなったからだ。

 白花桃花の初恋は告白することもなく、自然に消滅してしまった。

 久しぶりに再会した時にも私のことは一切覚えていなかったのだろう。

 この思い出を今にも覚えているのは白花桃花ただ一人だけだ。


【あとがき】

 お久しぶりです!

 最近、忙しくて執筆できておりませんでした!


 とりあえず、この話で桃花の回想編は終了です!

 次回、真夏? 夏休み? 水着???

 

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親友の誘いでヤリサーと噂されているサークルに入ったら、結婚の約束をしていた幼馴染がいた。 黒猫(ながしょー) @nagashou717

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