入口あるいは出口

結騎 了

#365日ショートショート 214

 そろそろ、だと思った。限界は近いだろう。あそこへ急がねば。

 こうなっては財布も要らない。スマホだって、しまえば繋がらなくなるのだ。余計な荷物だろう。少しの水と食料さえあれば、なんとかなる。

 そそくさと家を出て、繁華街へ繰り出す。人ごみを抜けた先に寂れた中華料理店があった。ややっ、なんということだ。行列が出来ているじゃないか。

 すっと身を寄せ、その最後尾に並ぶ。しまった。こんなことならもっと早く来るんだった……。やはりみんな、思うことは同じなのだろうか。

「うわっ、並んでるなあ」

 後ろから声がした。振り返ると、仕事帰りのサラーリマンといった風体の男が、こめかみをぽりぽりと掻いていた。

「すごいですよね。こんなに並んでいるなんて……」

 目が合ったので、思わず返事をする。

「そろそろだと思ったんでしょうね。まあ、仕方ないですよ。遅かれ早かれ」

 ふたりして首を縦に振った。やはりそういうことだよな。考えることは同じだ。そのタイミングも。

 列はなかなか進まないが、繁華街は次第に暮れていった。大きな声で騒いでいるのは、二軒目へ向かう千鳥足の男たち。気持ちよさそうに顔を赤らめている。

「残念ですね、彼らはもう……」

 サラリーマンの男は、ぽつりとそう呟いた。すごいなこの人は。見ず知らずの人を思いやれるのか。優しいんだな。

 しばらくして、列が進み始めた。この中華料理店の入口をくぐれば、それで助かる。ああ良かった。間に合った。

 さようなら。

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入口あるいは出口 結騎 了 @slinky_dog_s11

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