第9話

「そろそろあきらめてもいいんじゃないかな」

 ベニテングダケは、ニヤニヤとしている。勝利を確信したのだろう。

「オーフレイム、逃げなさい」

 透き通るような声だった。女王様だ。囚われの身ながら、決して威厳は失っていない。

「そういうわけにはいきません。今から生まれる子供たちのためにも」

 女王蟻は、たった一度の契りで何年も子供を産み続ける。これから生まれてくるのは、僕ら一族の仲間なのだ。

 これから生まれるのは、僕の甥っ子姪っ子ということにもなる。その子たちを、敵に渡したくはない。

「何ができるというんだい、君に」

「するのは僕じゃないよ」

 僕は、口から胞子を吐き出した。そして、魔法を唱える。目の前に、トゲトゲの頭をしたシロオニタケが現れた。

「主、申し訳ない」

「いや、こちらこそすまなかった。危険に気づけなくて」

「戦場は常に危険なもの。俺が油断していたのだ」

 サンダーはベニオニタケの方を向くと、剣を構えた。

「仲間を倒したのはお前か」

「なんだか変なやつが出てきたね。そうだよ、倒した」

「そうか。なかなかの武人と見受けられる。いざ尋常に、勝負!」

 このために、今日はここまで魔法を使わなかったのだ。最速で、復活させる。それが誰になるかはわからなかった。ただ、イリーの覚悟は守ろうと思っていた。「もし私と誰かが倒れても、私のことは助けないでください」とイリーは言った。その時に、復活を切り札にすることを決めた。

 サンダーが突っ込んでいく。ベニテングダケは横に飛んでかわそうとしたが、それもサンダーはついていく。剣が首元に迫ろうかという時、毒の霧が投げつけられた。サンダーがかわしたすきに、ベニテングダケは突っ込んできた。

「ちょっとだけ、回復した!」

 倒れていたスターの手から、白い光が放たれた。ベニテングダケの肩に当たり、弾けた。傷はそれほどつけられなかったが、動きを止めるには充分だった。視線が逸れたところに、サンダーの剣が襲い掛かる。

「俺の勝ちだ」

 ベニテングダケは、真っ二つに斬られた。

「まさか……」

 そして、サンダーは休まなかった。敵の魔法使いの方に走り、それも仕留めた。

 周囲を見渡す。敵はもういない。

 勝った。

「女王様……」

「オーフレイム。よく来てくれましたね」

「はい。絶対に助けると誓いを立てました」

「それはいいのですが……早くここから逃れなくては」

「えっ」

「感じないのですか」

 言われてみると、少し息苦しい。これは……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る