夕暮れの観覧車

 あれから私たちはいくつかのアトラクションに乗り、夕方ちょっと前くらいになった。おそらく次何かに乗ったら帰らなければいけない時間になるだろう。


「心音さん! 最後にあれ乗りたい!」


 と言った彼女は貰ったパンフレットの観覧車の位置を指さす。


「わかった。あれに乗りに行こうか」


 私達は最後に観覧車に乗る事になった。




 観覧車にはそこそこ人が並んでおり、私たちも列の最後尾に並ぶ。するとそこで、時雨がどこか緊張しているように見えた。気になった私は心を読んでみる。


(ロマンチックな夕暮れの観覧車……あそこで告白したら、心音さんと恋人になれたりしないのかな。お昼ご飯食べてた時顔を赤くしてたあれ……理由はわからないけど多少は私の事、意識してくれてるのかな……)


 遅かれ早かれ来るとは思っていたが、突然のその心の声に驚いた。もし二人きりの観覧車で告白された時、私はどう答えるべきなのだろうか……




「夕焼け綺麗だね」


 観覧車に乗り、少しの沈黙の後、時雨がそう話した。時雨の言う通り、上からの眺め、そして夕焼けはとても綺麗だ。観覧車はさらに登っていく。私は告白されるのだろうか、されたときの答えは一向に纏まらない。


♢♢♢


 観覧車の頂上が近づいてきた。頂上で私は、時雨さんに告白しようと思っている。私は意を決して話しかける。


「あ、あの心音さん!」


 しかしその時、私の脳裏にある考えが浮かんだ。


(もし断られて、嫌われたら?)


 楓華ちゃんは女の子同士なんて今時普通だと言っていたが、心音さんはそう思ってないかもしれない。この告白で私が気持ち悪がられて、私から離れていってしまったら? そうなるくらいなら、友達として、心音さんと一緒にいた方がいい。大切な人がどんな形であれいなくなるのは、もう嫌だから。


「ど、どうしたの?」

「ううん、なんでもない……」


 私は、告白するのは辞めた。だからせめて、二人きりのこの時間と綺麗な景色、もう少し一人で楽しませて……


♢♢♢


 彼女は告白しなかった。そして彼女が辛い片想いをしていること、寂しい思いをしている事に改めて気付かされた。

 実際時雨と付き合うことになった場合、どうなるだろうか。心を読む力、そしてそれによる今までの経験は、私が恋愛に前向きになれない理由としては十分だった。もちろん時雨がとても優しい人なのは、わかっているつもりだ。そして何よりも、私が時雨の事を恋人として好きになれるかという事もあり、どこか踏み出せずにいる。場は沈黙を保ち、観覧車は一周を終えようとしていた。




 遊園地の出口のゲートをくぐった私達。ちょっと気まずいながらも、時雨に一つあることを聞いてみることにした。


「ねぇ時雨。今日……楽しかった?」

「うん!とってもとっても楽しかった! 全部のアトラクションには乗れなかったからまた二人で来ようね!」


 心を読むまでもない笑顔で彼女はそう返してくれた。思わず私も笑顔になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る