遊園地デート

「遊園地のペアチケットが当たったの、私はいらないし心音が最近仲の良い時雨ちゃん誘って遊びに行ったら?」


 夏休みのある日、母親にそう言われた。ちなみに両親に時雨の事は友人として何度か話してはいる。複雑な関係になっていることは話してはいないが、母親は私同様心が読めるので隠れて能力を使ってたなら当然バレている。こちらから心を読んでもいいが、そうしたところで大したメリットがあるわけでもないし、読んでるのがバレた時が面倒なのでこれは素直に受け取っておこう。

 時雨にメッセージアプリでこの事を伝えると、すぐに「行きたい!!!」と返事がきた。日程もあっさりと決まった。前にあった勉強会と違って、今回は割と遠出になるので、服装も多少は気合を入れようかな。


 当日。集合場所は今回は最寄りの駅前。今回は約束時間の十分前に着くように調整した。今日の服装は黒色のシャツにロングスカートだ。到着してすぐに、聞きなれた声が掛けられる。


「おはよう心音さん!」


 声を掛けられた方に顔を振り向けると、白いワンピースを着て髪型を編み込みアレンジしている、大きく手を振りながらこちらに小走りで近付いてくる時雨がいた。時雨の見た目も相まって、その仕草はとても可愛らしく見える。


「おはよう時雨。そのワンピースと髪型、とても似合ってるよ」

「心音さんこそ、大人っぽくて綺麗だよ!」


 互いの服装の感想を交わした後、切符を買って改札を通る。せっかくの遊園地だし、今日は二人で思いっきり楽しもう。




「人多いね~」

 

 電車とバスを乗り継いで、遊園地のゲート前に着いたが、時期が時期なのでかなり人が多い。そして隣に立っている時雨がじっとこちらを見ながら手をそわそわさせている。なんとなく時雨のしたい事がわかったが、一応心を読んで確認してみる……やっぱり手を繋ぎたいようだ。友達同士でも普通にすることもあるだろうし、迷子になられても困るので心からのお願いを了承することにする。


「離れ離れにならないように、手、繋ぐ?」

「あ。うん、ありがとうございます……」


 彼女は顔をほんのり赤くして恥ずかしそうにそう言い、思い切ってこちらの手を掴む。こちらも少々恥ずかしくなってくる。


「じゃあ、とりあえず行こうか」


 私たちは手を繋いだまま、ゲートをくぐるのだった。




「まずは何に乗ろうかな~」

「時雨ってジェットコースターとかの絶叫系って大丈夫?」

「ジェットコースターとかは……乗ったことないからわかんないけど多分大丈夫!」


 時雨は身長が低いので、乗ったことがないというのは多分それが理由だろう。


「今の時雨の身長でも乗れるジェットコースターに乗ってみる?」

「うん! まずはそうしよっか!」


 とりあえずはジェットコースターに乗る事になった。私は大丈夫だけど時雨は本当に大丈夫だろうか。




(あっこれ大丈夫じゃないかも)


 ジェットコースターが登り始める途中、隣からそんな声が聞こえてきた。嫌な予感は的中しそうだ。


「きゃああああぁぁぁぁ……」

(きゃああああぁぁぁぁ……)


 ジェットコースターに乗っている間、隣からは常に二重の悲鳴が聞こえることとなった。




「大丈夫……?」

「だいじょばない……」

 今は時雨をベンチに座らせて休ませている。時刻はそろそろお昼時だ。


「もう少し休んだら、園内のレストランでお昼食べに行く?」

「うん、そうする……」


 十分ほど休んで、私達二人はレストランに向かう。




 少し並んだ後席に案内され、私はミートスパゲッティ、時雨はデミグラスソースのオムライスをそれぞれ注文した。楽しく雑談をしながら料理が届くのを待ち、そこそこ経った頃に料理が届き、各々食べ始めた。


「残ってるオムライスをあげるから、心音さんのミートスパゲッティも食べてみたい。」


 互いの皿の中の料理がだいぶ減ってきたころ、時雨がそう提案してきた。一度に二つの味を楽しめるし、交換してもいいだろう。


「わかった。じゃあ交換しよっか」


 料理を交換して、またお互いに食べ始める。スパゲッティも美味しかったが、このオムライスも美味しい。そんな事を考えながら食べていて、残り僅かになったとき、私はあることに気付いてしまった。


(あれ、これ間接キスじゃん!?)


 私はスパゲッティをフォークで食べていて、時雨はオムライスをスプーンで食べていた。それらを交換するなら、当然スプーンやフォークごと交換するが、時雨はあくまで料理を交換して食べたいということが目的だったので気付かなかった。時雨の心を読んでみたが、間接キスなんて気にしてない、というか気付いていないようで、目の前のスパゲッティを美味しく食べている。私に特別な感情を抱いている時雨ではなく、こちらだけが一方的に意識している事の恥ずかしさで思わず顔が赤くなる。


「あれ、心音さん顔赤いけどどうしたの?」

「なんでもない! なんでもないよ!?」


 私にしては珍しく取り乱してしまった。できるだけ意識を間接キス以外の事に逸らして、目の前の残り僅かのオムライスを完食した。


「「ごちそうさまでした」」

「スパゲッティもオムライスも美味しかったね!」

「そ、そうだね……」

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