サッカー=デスク

 前任者は失敗した。けど、俺は上手くやれる。


 実際上手くやれてる。俺以上に上手いのなんて見たこともない。


 そもそも、他の連中は根本が間違ってるんだ。


 奴らは確かに化け物で、俺たちが束になっても勝てないのは、察しの通りだ。


 だったら奴らの相手を奴らにやらせればいい。


 もちろん、殺し合わせるのが最上だが、それが叶わなくてもやりようはある。


 昨日の取引なんかいい例だ。


 奴らの一人、新参者が通過儀礼、マヨネーズを作ると言い出した。


 奴ら半分が開発する調味料、なんなら元よりこの世界に似たようなものがあったが、それは口にしない。


 一にも二にも上手い斬新だこれは儲かると褒めて讃えてご機嫌をとる。ここまでは誰でもできる。


 問題は次、これを量産して売りさばくと言われた時のこと、材料となる鶏卵を膨大数、どうやって入手するかで他の連中はボロボロ死んでいく。


 ひと昔前、奴らが来る前ならば養鶏もやってたし、なんとかなってたが、それらは奴らに焼き尽くされた。今や鶏自体が絶滅危惧種で、それ以外の鳥はほぼ絶滅した。


 卵が手に入らなければマヨネーズは失敗し、失敗の代償は虐殺だった。


 せいぜい首を吊って詫びを入れ、時間を稼ぐか、あるいは別の事件を起こして責任を他へなすりつけるしかないが、俺は違う。


 この問題、他の奴に持ち込むのだ。


 実は面倒なお得意様が急に鶏卵を膨大用意してこいって無茶言われて、だけども無下には断れなくって困ってるんですー、と泣きつくと奴らは面白いぐらいに協力的になる。


 まるで愛に飢えた子供のように張り切って、プラスチックとやらか作り出した卵をポンと出してくれる。


 あとはそれを引き渡し、既に存在価値のない紙幣を右から左へと移し、それぞれに賞賛の言葉を浴びせた後、マヨネーズを廃棄すれば万事解決だった。


 どこか胡散臭いが先見の明があって儲け話を持ち込んでくる商人、実に良いポジションだった。


 あとはこのまま取り入って、それぞれの組み合わせを拡大、共存させておけば、その隙間に生き残れる余地も産まれるだろう。


 この世界、生き残るには笑顔で靴を舐めなければならないんだ。


 ん? 何か光った?


「いっけなーい遅刻遅刻!」


 ドッシーン!


 いきなり飛び出しぶつかってきたのは少女だった。


 見た目綺麗で可愛らしく、清潔で、聡明に見えた。


 けれどもその口からは、咥えてたパンがポロリと落ちた。


 キャラ作り、と言うらしい。


 奴らに気に入られようと意味不明ながら奴ら好みの格好行動をする。


 生き残るために編み出された一つの生き方だった。


「ちょっと! どこ見てるのよ!」


「すみません。ちょっとぼーっとしてて」


「あ、はい」


 俺が普通に返すと、彼女も素に戻ったかのように大人しくなった。


 キャラ作り、これをみっともないと蔑む者もいる。彼女も内心引っかかるものがあるのだろう。


 けど、俺はそうは思わなかった。


 どんなに蔑まれても、みっともなくても、生き抜くこと、この強さ、美しさは、奴らには絶対にわからないだろう。


「大丈夫ですか?」


 だけど俺はわかってる。


 そう、意思を示すように、俺は彼女へ手を差し出した。

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おくつぺろぺろ 負け犬アベンジャー @myoumu

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