Root 25 琥珀色の夢とは。


 ――それは今この時、二度と戻らない青春の夏。蝉時雨も静まり返っていた。



 いつの間にか、いつの間にか……


 近づく二十四時間テレビ。それもまた夏の終わりを飾るイベント。その日はお家で御淑やかに過ごす。……その理由は、あまり察してほしくないのだけれど……


 夏休みの宿題が、そっくりそのまま。夏休みが始まって三日目と同じ。そこから停滞しているの。そのことを、うっかり口から洩れちゃって、美路みちさんに聞かれちゃったの。


 障子に耳あり壁に目あり……と、いう具合に。


 イメージしてみて。この時の場面。芸術棟には障子はないけど壁はある。壁はあっても壁ではなく、アトリエのドアの向こう側。怜央れお君と二人きりのはずだったのに、まだ芸術棟の七不思議は継続でもしているような感じで、「は~づ~き~」と不気味な音声が漂ったの。ギクッとなり振り向くと、振り向くとだね……白昼堂々、顔が悪魔みたいな美路さんが立っていたの。そして「今、ギクッとなったね?」と、訊かれて……


「わかってるよね、このままほっといたら」


「は、はい……」


「地獄を見るよね、最終日」


「仰る通りです……」


「じゃあ、私が見てあげると言ったら、断れないよね」と、そのタイミングで、美路さんは僕の顔を覗き込む。遠回しな言い方も、その時の表情も、とっても意地悪で、……意地悪だけど。すると怜央君は「僕も一緒にいるから大丈夫。二人で頑張ろう」と、言ってくれた。「いいの?」と、僕は問う。怜央君はきっと、もう夏休みの宿題を終えている。僕のために付き合ってくれる。そう思っていたの。思っていたら……


「僕も葉月はづきと同じだから。僕だけじゃなくて良かったよ」


「へっ?」と、いう具合に(聞き間違い?)と思ったけど、聞き間違いでもなくそれが事実で、紛れもなく事実で、その何分か後には論より証拠も目の当たりにした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る