Root 21 お話は続きます。


 ――駆け下りる階段。手を取り合って二人、二人なら大丈夫。



 僕は見る。怜央れお君の横顔……


 キュンと高鳴る程、とても逞しく思えて……ギュッと握る手。


 長いようで短い距離、同じ芸術棟内の二階から一階。心が定まるのも待たないうちに顔を合わせた。そもそもが今日会う約束をしていたので、当然といえば当然だけど。それでも、いざとなると、固唾を呑む程の緊張感が一気に支配したの。


 目の当たりに、中村なかむら美路みち……


 紛れもなく現実で、彼女は粘土の塊を叩きつけていたと思われる。その手は白くなっており、迷彩のツナギの裾も、その痕跡を充分すぎるくらいに残していた。額には汗……


「かなり力がいるのね、それ」


「ああ、こうしないとな、思う通りの形にならないんでな……」


 彼女はここで作品を作る。粘土細工による作品……途中まで、全体的な形は想像できそうな進捗。人型……「モデルとかいるの?」「まあ、勝手に作らしてもらってるけど、お前をモデルにしてな。悪いけど、何度か覗かしてもらってたんだ、お前が絵を描いている場面。先生も先生なら生徒も生徒だな、絵を描く時のスタイルは……」


 するとカーッと顔が熱くなるのを感じる。


 それはイコール、僕の裸を見られたということも意味している。それに今まさに、彼女が作ろうとしているものは……「まさに絵を描いてる時のお前、星野ほしの葉月はづきそのものをな」


 と、シレッと答える中村さん。……或いは美路さん。


「もしかしてだけど、完成したら私学展に出展するの?」


「もちろんだ。令子れいこから頼まれたからな。……前に言ったよな? 私はお前たちの大先輩だって。令子とは同じ美術部だったんだ。つまり草創期の同期ってわけだ」


 と、美路さんは親指を立て、ニカッと笑った。これをもって、彼女の素性はハッキリして安心感を得たけど、まだ秘密は残されている。それも、身近な中に……



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