2小節目

白崎しろさきなずな、朝陽あさひ第三中出身です! 中学校ではアルトサックスをやってました。なので、全くのホルン初心者ですが、よろしくお願いします!」


 第一印象、アシメな前髪。


「朝陽第三中! A部門の強豪校じゃない? 強豪校行かないで何でうちに来たの?」


 三年生の先輩が興味津々で尋ねた。


「先輩、そういうのデリカシーが無いって言うんですよ」


 二年生の先輩がため息を吐いた。


「え! ああ、またやっちゃった。ごめん、嫌な気分にさせちゃったかな……?」

「いえいえ、全然大丈夫です! やっぱり気になりますよね、さっき一年生で集まった時も聞かれました。あれです……言いづらいんですけど、受験に落ちちゃって……」


 そう言ってえへへ、と笑った。二年生の先輩はほらぁ、というような顔をした。


「初心者ってことだけど、私も高校からホルン始めたから何の心配もいらないよ! 私が手取り足取り教えてあげるね……」


 そう言って三年生の先輩はにたぁ、と笑った。


「先輩、後輩たち引いてます。今すぐその顔やめてください」


 二年生の先輩が呆れた顔で言った。


「よし! じゃあ、次! お願いします」

「はい」


 俺は姿勢を正した。


遠野蒼とおのあおい湊都みなと中学校出身です。中学でもホルンをやっていました。よろしくお願いします」

「おお、こっちはB部門で有名な学校だ。今年の一年生は期待できるぞ~。ちなみに、うちを選んだ理由は?」

「部活動見学をした時に先輩たちが楽しそうに吹いているのを見てここに決めました」


 俺は爽やかな笑顔で返した。もちろん、真っ赤な嘘だ。


「ええ~ねえ、聞いた? 私達の楽しそうな姿を見て向坂高校にしたんだって~嬉しいねぇ~」

「ちょ、本当にその顔やめてください……」


 それでも俺の言ったことを信じたみたいで、先輩はすっかり上機嫌になってしまった。



 今年入部したホルンの一年は俺と白崎なずなという女子の二人。話を聞く限り、白崎は強豪校出身だが、アルトサックスだったのでホルンは全くの初心者。金管楽器を触ること自体、体験入部でもできなかったので初めてだという。だが吹いてみると、意外にも一発目から音が出た。しかし、ホルンはギネス世界記録を持つほど金管楽器の中で一番難しいと言われている楽器だから、初心者向けだと言われているサックスと比べてそう簡単には吹きこなせないだろう。つまり、俺の方が白崎よりも断然上手いというのはもはや揺るがない事実。


「相手にもならねーな」


 これは三年になった時が楽しみだ。


「あーおー太!」


 背後でそう呼ぶ声が聞こえたかと思うと、突然視界いっぱいに白崎が入ってきた。


「うわ、びっ、くりした……え、何? あお太? あお太って誰?」

「もちろん君のことだよ」

「は? いや、あお太じゃなくて蒼だし。てかクソダサいんだけど」

「知ってる」


 は? さっきからこいつ意味わかんねーんだけど。何。


「君は『あお太』って感じがするから『あお太』って呼ぶね! ね、いいでしょ?」


 ……電波系か? 電波系なのか?


「いや……まあ……好きに呼べば? 反応しないと思うけど」

「りょーかい! じゃあ、また明日ね、あお太!」


 そう言って白崎は軽快な足取りで去って行った。何だったんだ、一体。


「カナ~一緒に帰ろ~」

「だから『きょうこ』だってば!」


 どうやらあいつは人に変なあだ名をつける癖があるらしい。



 結論から言うと、あいつは電波系でも何でもなかった。そして、気に入った奴にあだ名をつけるという事実が判明したのはもっと先の話だった。

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