解明の8月31日

 8月31日、僕はある人と一緒に家の前に立っていた。


「……少し緊張してます?」

「少しどころかだいぶね。だって、私達がやった事を話さないといけないし、私はそもそも行方不明になってるはずなんだから」

「そうですよね。でも、話すしかないですよ、“夏子叔母さん”」

「……そうね、腹を括るわ」


 夏子叔母さんが緊張した様子で言った後、僕は玄関のドアを開けた。そこには複雑そうな顔をする母さんが立っていて、母さんは夏子叔母さんを見ると、何も言わずに手を上げた。

パシンという小気味の良い音が聞こえ、夏子叔母さんの頬が平手の形に赤くなると、母さんは目に涙を溜めながら静かに口を開いた。


「……この、バカ妹。行方不明になったと思ったら、オオバなんて偽名使ってウチの青志に手を出してたなんて……!」

「……それは姉さん達だって悪いじゃない。私だってあの人の事が好きだったのに、姉さんはいつも自慢げにデートの話をして、母さん達は早く良い人見つけろってせっついてくるし……私だって良い人くらい見つけたいわよ! それなのに、姉さん達は……姉さん達は!」

「それでも、青志を利用する理由にはならないじゃない! 青志に、自分の甥に手を出すなんて……!」


 母さんは両膝をつくと、その場で泣き崩れ、夏子叔母さんもポロポロと涙を流しながらただ母さんを見つめていた。

僕が選んだ道、それは“両立”だ。オオバさんこと夏子叔母さんの件も若宮さんの件も僕には大切で、どちらかを選ぶなんて出来なかった。だから、まず僕は覚悟を決めてオオバさんの件を母さんに話した。

話した時、母さんは驚いていたし、僕から聞いたオオバさんの容姿が探していた夏子叔母さんとそっくりだとわかると、自分の息子と妹が肉体関係にあると知って強いショックを受けた。

だけど、こうしてあって話すという覚悟を決めた事で僕はオオバさんのところへ向かい、オオバさんが夏子叔母さんである事を確認してから説得をして家まで連れてきたのだった。

そしてもう一つ、若宮さんの件も同時に動いていて、夏子叔母さんを迎えに行く前に僕は若宮さんの家に行った。若宮さんは留守だったけど、若宮さんのお母さんが預かっていた手紙を読み、若宮さんが助けを求めている事を知って、僕は手紙を若宮さんの両親に見せ、若宮さんがいるであろう場所に行ってもらった。

本当は僕も行くべきだけど、僕が行ったら夏子叔母さんの件をどうにか出来なくなると考えて、電話で連絡をしてもらう事にしていたのだ。


「……夏子叔母さん」

「……ええ、わかってるわ。ただ、姉さんと喧嘩をしに来たわけじゃない。全てを終わらせるためにここへ来たんだものね」

「……はい」

「……姉さん」

「……なによ」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにした母さんが夏子叔母さんを見上げると、夏子叔母さんは涙を流しながら母さんに手を差し出した。


「姉さんが望むなら、私は青志君に手を出した罪をしっかりと刑務所で償うわ。だけど、その前にこれだけはやっておかないといけない」

「…………」

「姉さん、心配をかけて本当にごめんなさい。姉さんさえよかったら、また私達は姉妹として一からやり直したいの」

「……一から、か。そうね、私にも非はあったわ。貴女があの人を好きそうだとわかっていたのに、少し自慢してやろうと思ってデートの事を話してたんだもの。私がそんな事をせずに母さん達も止めてれば良かったのよね」

「姉さん……」

「ごめんなさい、夏子。こちらこそ一からやり直させて。こんなダメな姉でも良かったらだけど……」

「……姉さんはダメなんかじゃない。ダメなのは私なのよ……」


 そうして二人は涙を流しながら抱き合い、リビングから電話のコール音が聞こえた事で僕は靴を脱いでリビングへと入り、電話を取った。


「はい、夏野です」

『あ、夏野君。そっちはどう?』

「はい、何とか解決しました」

『……そう、それは良かったわ』

「あの……もしかしてそっちは……」

『ええ、予想通りよ。お父さんを何とか警察の人が止めてくれてるし、愛奈は寸前で救出出来た。だけど、その相手は……』

「……父さんだったんですね」

『……残念ながらね。とりあえず事情聴取で今日は夜まで連絡出来ないから、出来そうな時にまた電話をかけるわね』

「わかりました」


 その言葉を最後に若宮さんのお母さんからの電話は切れ、母さんと夏子叔母さんの泣く声が聞こえてくる中、僕は全てを解明した事で胸に虚しさが募っていくのを感じていた。

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