既確認飛行物体来襲

そうざ

A Confirmed Flying Objects Attacks

 ちんぷんかんぷんな数学の授業中、窓際の席で欠伸あくびを噛み殺していると、小春日和の青空に〔既確認飛行物体〕が飛んでいるのが見えた。

 また奴らの来襲だ。

 軍隊が出動しなくなってどれくらい経つだろう。警察に通報したって民事不介入の原則とか何とか言ってはぐらかされてしまう。要するに、そんなの各自で適当に対処しろって事になった訳だ。

 二次方程式に嫌気が差した僕は、空を指差しながら先生に申し出た。

「先生、また奴らがやって来ましたよ。さっさとやっつけちゃった方が良くないですか?」

 先生は窓の外にちらっと目をやった。

「放っとけ。あんなのに気を取られてる時期じゃないだろ。もっと受験生としての自覚を持て」

 教室の皆も関心がないようで、黙々と受験対策問題を解いている。

 以前は、奴らが来襲する度に学校は全校生徒を避難させていた。授業が中断するもんだから僕等は内心奴らに感謝していたけれど、あの頃は皆それなりに恐怖を感じていた。それが近頃はどうだ。受験が近付いて来た事もあってか、もう誰も見て見ぬ振りさえしなくなってしまった。

 不貞腐ふてくされて見上げた青空の彼方、〔既確認飛行物体〕がうのていで飛び去って行く。

 奴らは毎回、手間暇を掛けて遥々はるばるやって来るみたいだけれど、地球に到着する頃にはすっかり疲れ切っていて、侵略の余力なんかこれっぽっちも残っていないらしい。どうせ今回も商店街のおばちゃんかなんかに返り討ちにされたのだろう。毎度ご苦労様と声を掛けてやりたい気もするし、もしかしたら侵略が目的ではないという気がしない訳でもない。

 あ~、もっと凄い奴らが来襲すれば良いのに――ノートに落書きをしながら、僕はさっきより大きな欠伸あくびを噛み殺した。

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