5話 本当は

「手伝ってくれて助かったよ。」

「いえいえ!お弁当のお礼だから気にしないで!」

翌日の放課後、郁利はお礼をするために生徒会の手伝いをしていた。

作業が終わり2人が帰ろうと廊下を歩いていると、見覚えのある人物がこちらへ向かってくるではないか。


「二人とも久しぶりだな?」

「君は…」

「と、砥狩とがりくん。」

その相手は目の前で立ち止まり、不敵な笑みを浮かべながら話しかけてきた。

どうやら彼らの様子からして、あの時郁利と一緒に屋上にいた人物のようだ。


「また何か悪巧みでもするつもりかい?」

「この前教師に突き出されたばっかだからなぁ、生徒会長さんの前ではそんなことはできねぇわ。」

彗が警戒したように問うも、嫌味を言って怯む様子もない。


「今日は忠告だけしといてやるよ。ソイツはあんたのこと利用してるだけだってね。」

「…利用?」

「ほら、今だってあんたの後ろに隠れてさ。タイミング見計らってここからいなくなるつもりだろ。」

砥狩は咄嗟に生徒会長の後ろに隠れた郁利の腕を引っ張ると、顔を覗き込むように尋ねた。

彼は一瞬驚いた表情をするも、彗に知られたくないのか黙ったままだ。


「違うなら反論できるはずだよな?けど、このお口が閉じてるってことは図星なんだな。」

「ん!さ、触るな!お前には言われたくないっ!」

何も話さない相手に追い打ちをかけるよう、その人物はより顔を近づければ彼の唇を親指でなぞる。

郁利はその行為に嫌悪感を覚えたのか、反射的に砥狩の手を振り払うと逃げるように立ち去った。

よほど嫌な思いをしたのだろう。


「ほらな。だから気をつけた方がいいっすよ、宇宙峰センパイ?」

「君は彼の嫌がることばかりするね。何か恨みでもあるのかい?」

「あったとしても話さねぇよ。つーかあんたみたいな富豪の坊っちゃんが一般人と普通の友達みたいに接することなんてできねぇの分かってんだろ?」

彗が彼を追いかけようとするも、行く手を阻まれ前へ進むことができない。

それどころか、相手の痛いところも突いてくるではないか。


「それは…」

「あんたに近づく奴は権力か金目当てだってこと理解したほうがいいぜ。」

生徒会長はその発言を聞いて、返す言葉もなく口籠ってしまう。

そんな相手に対し、砥狩はあざ笑いながら手をひらひらと振るとその場を離れていった。


彼はどうしてこんな仕打ちをするのだろうか?

教師へ突き出された恨みなのか、はたまた別の理由があるのか。

それは彼自身しか知り得ないことである。

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