普通もおバカも変態も、みんな世界に生きている

神美

第1話 バカと変態の魔物登場!

 それは学力、運動、気力、体力、見た目、面白さ。

 全てにおいて“普通”である僕が召喚する魔物としては明らかに異質な二体だった。


 一体は見る者に恐怖を感じさせる地を揺るがす咆哮を上げ、口から鋭く白い牙をのぞかせている。

 頭の横から外側に向かって黒い角が生えた姿は牛やバイソンを彷彿とさせ、鋭い爪、褐色の筋肉質な肌、闇夜に溶け込む乱れた黒髪は妖しくも強靭さを表していて。赤い瞳は爛々とした輝きを見せている。


 もう一体は陽が当たらない静かな森をイメージさせる濃い緑色の艶やかな髪色に、なんでも見通しそうな緑色の瞳で。全身を紳士が着るような白いスーツに身を包んでいた。

 背中にはほのかに輝く水色の大きな双翼が広がり、その姿は飛び立とうとしているカワセミのように美しくも、冷たさを宿す細い目つきが怖さを感じさせる。


 目鼻立ちや顔の造りは人間に似たその二体は学校の校庭に描かれた輝く金の円陣から光と共に現れ、宙を漂っていた。


 本当にあれを自分が呼び出したのか。

 呼び出した能力普通の自分――ミューは焦げ茶色の髪の隙間から汗を一筋流し、ありえない存在を前に呆気に取られた。


 それは様子を見ていた周囲の同級生も同様だ。真新しい紺色の制服を着用した同級生は全員、口を半開きにしている。


 そして同じく、それ見ていた丸い眼鏡をかけ、少しハネた黒髪の、ワイシャツ姿の若い男性――担任のトト先生が驚きと、眼前に広がる美しさに感嘆の声を上げる。


「この魔物は上級地魔ベリアスと上級天魔セラフィム……!」


 トト先生の言葉に周囲がざわめく。


「えぇっ、なんで高校に入ったばかりの俺達の召喚で上級魔物が現れるんだっ」


「っていうか、なんでミューが上級魔物なんか召喚できるんだよ」


 同級生の好奇の視線が痛い、そんなの自分の方が理由を聞きたい。初めての召喚、まさかこんな二体が出現するなんて。


 しかも召喚できる魔物は普通なら一体だけのはずだ。二体の召喚なんて聞いたことがないし、もしこれから“パートナー”とするなら、どちらにすればいいんだ。


 二体の魔物は禍々しくも美しく。円陣の上からふわりと浮遊し、この高校の校庭へ降り立つ。そんな二体を見つめ、ミューは緊張と不安に喉を鳴らした。


(どうしよう……この召喚、もしかしたら失敗? なんでこんなすごそうなのが……僕の力でこの二体を使役なんてできやしないよ。もしかしたらこのまま殺されるかもしれない。使役できない魔物は人間を襲い、喰う……)


 ミューの背筋がゾクッと震える。


(まだ十五歳なのに。高校生になったばかりなのに。何かしら頑張って普通の自分を抜け出したいと思っていたのに……!)


 完全に召喚が終わり、二体の魔物は自らの意識を宿したかのように、こちらに視線を向けた。刺すような赤い瞳と緑の瞳……それに何も言えず、見つめ返す。絶対になんでこんな人間に呼び出されたんだ、そう思われている。

 だが二体は不思議そうに自分を見て、まばたきをする。


「おや、君は……」


「ん、お前は……」


 二体の魔物はなぜか驚いたように自分を見ていたが。まずは黒いバイソンのような地魔と呼ばれる魔物が動き、己の手を握ったり開いたりしながら自身の存在を確認した。

 そして視線を、己の下半身に向けた時――。


「おー! なんだこりゃ!」


 バイソン魔物の素っ頓狂な声に、ミューは目を見開き、あらためて見て気づいた。

 この世界に住まう魔物という存在だが……完全に獣や鳥のような動物に似た存在と人間に近い姿をしたものがいて、今目の前にいる二体は人間に近い魔物だ。


 バイソン魔物の素晴らしい身体は、この場にいる全員に見せつけられている。一糸まとわぬ姿……それはそれは素晴らしい“全て”を包み隠さずに見せているのだ。


「こらー! そこの人間っ! お前だな、オレがシャワーを浴びている間に召喚するなんて間が悪いにも程があんだろーっ!」


 バイソン魔物はこちらを指差し、そんな文句を述べた。というか魔物もシャワー浴びるんだ。しかもそんな文句言いながら大事なとこは隠さないまま、堂々と立っているし。


 呆気に取られて「は、はぁ」としか答えられないでいると。今度はすぐ近くに誰かの気配を感じて「へっ?」と首を横に動かした。

 いつのまに移動してきたのか。すぐ真横、本当に相手の呼吸を頬に感じる距離では、もう一体の魔物が――美しいカワセミのような魔物がそこにいたのだ。


「……君が新たな召喚者ですか。まだまだ幼い子供ですね。しかし私を呼び出せたという不思議な力の持ち主。どんな味がするのですか?」


 カワセミ魔物はそう言うとミューの頬を、いきなり舌でなめた。頬に感じる初めてのぬるい感触に「ひゃあっ」と変な悲鳴を上げてしまった。

 すると全裸のバイソン魔物が声を荒げる。


「こらぁ、そいつはオレの獲物だぁ! 変態天魔めっ! 手を出してんじゃねぇ!」


 バイソン魔物はこちらに向かって歩いてくる。


(いやいやいや、大事なところが全て丸見えなんだけど。同じ男とはいえ、たくましすぎて目のやり場に困るから!)


 一方のカワセミ魔物は、そんなバイソン魔物を見て鼻で笑った。


「まったく、そんな見苦しいもの出しながら、こちらに来ないでください。公然わいせつも甚だしい。この子供は私が先に目をつけたのです。あなたみたいな、おバカな地魔に渡せません」


「相変わらずイケ好かないヤツだ! オレがバカだってんなら、お前はただの変態だっ!」


 おバカな地魔と変態な天魔。

 これが二人との出会いだった。

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