第2話 夜にくつろぐノ怪物(ノケモノ)達

 食事会がたけなわとなり、木場、日宵ひよい梔子くちなしは雑談を交わしつつ酒とゆるゆると杯を重ねる。


 そして酒を咲と茉由まゆは液晶モニターで恋愛シュミレーションゲームをしながらソファで歓声を上げている。


「茉由、そこは『好きです』って勝負かけなきゃ!」

「はい!……好きって言葉がないですよ?!」

「心を込めて100回ぐらい念じるの!」

「わかりました!好きですう、好きですぅ……」


 咲のアドバイスに、ワイヤレススティックを頭上に掲げた茉由。

 お祓いのようにスティックを振り回し始める。


 そして、その隣では咲が濃厚に、画面のキャラに愛を囁き始めた。


「好き好き好きしゅきぃ!愛して愛して愛して!ふひっ」

「のう、それは呪いを掛け合うゲームなのかえ?」

「何か、色んな子達が集まってきてますね。『私達、呼びましたか?!』って喜んでますが……」


 木場は霊を優しく振り払いつつ、咲に注意を促した。


「おい、咲。集まってきたモノ共が『私達と一緒に暮らそう!』って茉由に纏わりついているぞ」

「ひゃあ!だ、だめぇ!茉由には帰るおうちが!」

「ええー?!……あ!ねえねえ!そこのお兄さんイケメンですねえ!茉由じゃなく私なら触り放題、し放題ですよ!ぐっへっへっへー」


 茉由に纏わりつく若い男の霊に、両手で胸を強調した咲がウインクをする。


 すると。


『ひいっ……』


 ぱあああああ。


 怯えた顔で悲鳴を上げたその男や周りの霊達が、白い光に包まれて消えていく。


「え?」


 咲は目の前で起きた事が理解できず、茫然としている。


「咲、凄いな。今度除霊の仕事が入ったら手伝うか?」

「咲ちゃんありがとう!みんなキラキラと満足そう……に?成仏してったね!」

「ち!ちっがあああああぁぁぁう!!」





「私の王子様はどこぉ……咲はここだよぉ……」


 虚ろな眼つきでブツブツと呟く咲の頭を太腿に載せ、よしよし、と撫でている梔子が思い出したように言った。


「そういえば、きの……コホ。お館様が『月例会でな?余興で、最近嬉しかった事をひとつずつ聞いて報告してこい』と仰せでしたので、お伺いしてもいいですか?」


 昨日、お館様が……と言いかけたのを、咲を見て誤魔化した梔子の言葉に、木場から順に話し始めた。


「俺はお館様から三連休を貰い、湖畔にキャンプをしに行ったな。楽しかった」

「だ、誰と……はっ!わ、私は!お館様と夕餉のご相伴をさせて頂いた事ですっ」


 噛み気味の梔子に、首を捻る木場。

 それに構わず、日宵が話を継いだ。


「儂は、お館様に『ぬらりひょん』の動きをお褒め頂いた事かのう」

「茉由は、お館様に『お前は私が今までに見た座敷童子の中で、頭抜ずぬけて可愛いぞ』と褒められて嬉しかったです!」


 皆がそれぞれの嬉しかった事を聞いて微笑む。

 その話の流れに、木場だけが首を捻った。


(何故に、お館様の話ばかり……。それに、この違和感)


 木場が辺りを見渡している所に、咲が参戦した。


「私はお館様に、『お主は巷の口裂けとは一線を画す可愛さよの』と褒められました!」


 咲がそう言って梔子の膝の上で笑った。

 梔子、茉由が咲の笑顔を見て、顔を綻ばせる。


「……でも、その後が酷かったんですよ!『性根は柘榴ザクロ並みに裂けておるがな。ざっくざくだの』とか言われたんですよ?酷くないですか?!」

「「「「え?」」」」


 その言葉に、皆の目が点になる。

 咲は話を続けた。


「大体ですよ?お館様がいないからぶっちゃけちゃいますけど!それを言ったらお館様なんて美少女です!みたいに化けてますけど、心はざっくざくのぐっさぐさ!存在がもう歩く罠みたいじゃないですか!」


 咲は火が付いたのか、文句が留まることを知らない。


 が、他の四人は。


 急速に密度を増し、ギシギシと音を立てる空間に冷や汗が止まらない。


(咲……咲!もうその辺りで止めておけ!)


 必死に目配せをする木場だが、時、既に遅く。 


「……もう出張とか絶対嘘ですよ!どうせ、タップダンスをする私を何処かで」


 がっ!


「「きゃー!!!」」


 梔子と茉由が叫びをあげた。


 咲の頭の傍が揺らぎ、白魚のような手が出現してその頭を鷲掴みにしたからだ。


「ぎゃー!い、痛い!頭がああああぁぁぁ?!」


 わるいごは、いねがぁ。

 わるい咲は、いねがぁ。


「お館様ああぁ?!痛いです痛いですぅ!全部嘘ですジョーダンなんですよぅ!」


 お館、だあ?

 おらは、超人なまるはげまる。覚えろ。ぷくくぅ♪


「その笑い方、お館様じゃないですかっ!……ぎゃー!」


 20秒後。


 咲が失神した瞬間に、自称なまるはげまるの手は消え失せたのだった。

 

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