第2話 溶けない氷

翌日の昼になった。

私は昨日の疲れが災いしてお昼まで眠ってしまっていた。

カナの部屋をノックする音が聞こえる。キツネのトッドさんだ。私は慌ててその場から飛び上がった。

「ごっごっごめんなさい!」

「いいってことよ。準備ができたら1階に来てくれ」


宿の主人にもらった服に着替えた私は、1階のテーブルにトッドさんと共に座った。

「さて、早速だが。そのコンビニとやらは、とにかく便利な物が詰まっていると」

「はい。人種に合わせた飲み物、アイス、温めるだけで食べれる冷食、パン、ポタージュ、おせんべい、ラーメン。食べ物だけじゃないですよ。タオル、ノート、ダンジョンで使う光るペン、シール、それからあらゆるジャンルの雑誌、立ち読みできます。ダンジョンまで来たはいいものの、大事な物を忘れた時、喉が渇いた時、サッとコンビニですますことのできる、便利なコンビニにしたいんです」

トッドはふむふむと頷きながら、カナの言う事を聞いていた。

「カナは、前世からやってきたと言っていたな」

「あ、はい」

「前世では何ともない物でも、ここでは色々と不便な事もある」

「例えば?」

「アイスなんて、普通の氷じゃすぐ溶けちゃうだろう。飲み物だって冷たくならない。冷たくない飲み物は売れない」

「はぁ…」

「そこでだ」

トッドは片手の瓶に入っている酒を飲みながら言った。

「『溶けない氷』を採取しよう」

「そんなものがあるんですか?」

「ある。が、環境の厳しい所にある。今から2人でそこにいき、溶けない氷を採取してこようじゃないか。まずは最初の試練だな」

環境の厳しい所…どんな場所なんだろう。でもとにかく行ってみないと分からない。

「私はミューミューを2匹連れてくるから、君はヒツジの皮に水を入れてきなさい」

ミューミューとは何だろうか。ラクダみたいなものだろうか。とにかく行動に移す。

しばらく宿の前で水を持って待っていると、トッドがミューミューに乗ってこちらにやってきた。ミューミューは鳥のような生物だった。

「渇いた土地にいくから、この布をまといなさい」

そう言って布をこちらに投げてよこした。それをまとい、トッドについていく形でどんどんとついていった。しばらくすると砂塵が巻き起こる地面がひび割れた所にやてきた。こんな場所に氷はあるんだろうか。30分ほど進むと、大きな崖がそびえたった。

「氷はこの崖を降りたところにある。紐を使って降りて行って、氷を取って来る必要があるんだ」

「やだこわい…」

「手順を踏めば大丈夫だ。でも降りていくのはカナ、お前だぞ」

「えええ……」

「大丈夫だ、ヒモで支えててやる。ミューミューにも引っ張ってもらう」


カナは紐をしばってしがみつき、ゆっくり下に降りていった。ゆっくりと、ゆっくりと降りてゆくと、がけに突き刺さるように青いレンガのようなものが見つかった。

「あれかな?」

カナは紐をゆらして、それに近づいてみた。

「あ、あまりゆらすなよ、こっち引っ張ってるんだから」

トッドとミューミューは苦戦中だ。

すると、レンガ状の青くてキラキラしたものを4つ袋に入れた。袋に入れても冷たい。

「トッドさん引っ張っていいですよー!」

トッドとミューミューはカナを引き上げ、無事地面に到着できた。

「4つ取れました」

「4つならまあ充分だろう、よし、帰るか」

再び砂塵の舞う干からびた土地へ引き返し、宿に向かった。

宿のテーブルに4つの氷を置いてみた。

「なんせ溶けないから、これでアイスと飲み物はいい感じだ」

カナは今更さっきの恐怖がぶり返してきた。崖の下は真っ暗だった。

トッドは酒を飲みながらカナに言った。

「それでもまだ足りないものがあるぞ」

「あるとは思いますけど、なんでしょう?」

「それはな…」

トッドは前のめりになってカナに言った。

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