月ふる海のふたつぼし

佐藤菜のは

月ふる海のふたつぼし

月うつす海を夢みる双子は

夜汽車に乗りこんだ


白露の晩に乗客はまばら

夜汽車はゆっくりと走り始める


――あるとき突然戦争がはじまり

たくさんの大人が死んだ


大人がいなくなったら

次は子どもどうしで殺しあう


理由なんて誰も教えてくれない

問うより先に奪わなければ


侵される

犯される


男の子も女の子も

おぞましい動物となった


眼が零れ、耳が欠け、鼻が削げ落ち

指が折れ、腕が捥げ、脚が潰れた


残った身体はふたり合わせても

たったこれだけ


もう疲れたよ

眠りたいよ


遠くへ行こう

汽車に乗って


子どもが子どもを殺さなくていい場所へ

ふたりが夢みる海はきっと優しい


ふたつ並んだ星になれたらいいね

月のうつった海をずっと一緒に見ていたいね


長い眠りに沈む双子を乗せて

夜汽車は星月夜の向こうへ消えて行く



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月ふる海のふたつぼし 佐藤菜のは @nanoha_

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