平行線の未開拓地

「ん……」


ゼノが目を覚ますとそこは冷たい床の上。


(ここは……)


朧げな意識の中、身体を起こすと全身に激痛が走る。


「……つッ!?痛ぁ!」


ゼノは苦痛に顔を歪める。骨の折れている感覚は無かったのでとりあえず立ってみることにする。


「だ、誰かいませんか?」


フラフラになりながらもそう声をあげると、奥の方から足音が聞こえる。そちらを振り向くとそこにはかなり色素の薄い金髪の下ろしたら床につきかねないほどとても長い髪をポニーテールで結んだ女性が立っていた。


彼女の風貌は金に縁取られた白いマントの下に高校の制服を来ていて首からは深い青紫色の宝石の着いたネックレスが下げられていた。


「……ここに来る人がいるなんて、珍しいね」


彼女はそう言うとゆっくりと、こちらに近づいてくる。そしてゼノに顔を近づけて見る。


「そんなにまじまじと……あの、ここは?」


すると、その女性は少し悩むように顎に手を当てる。


「……君の使う《力》、それの根源となる世界さ、大きな《力》により君の意識がこっちに引き寄せられたのかな?」


「力、ですか?」


ゼノがその回答に戸惑った様子を見せると彼女は微笑む。


「ある人の言葉を借りれば……《編集》かな」


(《編集》、3度も僕の危機を救ってくれた力でもその発動条件や実態はよく分からない……)


「知りたい?《編集》がどんな力でどう操るのか」


その女性はイタズラな笑みでそう聞いてくる。


「そりゃ、知りたいですけど……」


彼女はふふっと笑うと手を差し出す。


「私は名前を思い出せない、君は?」


「僕はゼノです」


すると、彼女は少し驚いた後に頷く。


「いい名前だね……」


彼女は微笑みながらその手を握るとそのまま手を引く。


「歩きながら話そうか」


「……はい」


二人は何も無い白い空間を歩き始める。


「《編集》はこの世界を私達が書き換えられる力の事、以上」


彼女は歩きながらそう言った。


「……え?それだけですか?」


ゼノが聞くとその女性は頷く。


「そう……簡単な話だとこれだけ。ちゃんと説明すると、この世界は膨大な情報の集合体が形作ってるの、私達は基本的にはソレに干渉することは出来ない……何故なら私達もそこに含まれている一つの文字列に過ぎないからね」


急に壮大な話になってきた……一気にそんな言われてもさっぱりわからん……


そんな様子を感じ取ったのか、彼女は微笑みを浮かべて言う。


「とにかく、君が今まで使ってきた力は……そう簡単には出来ないことって事」


彼女は続ける。


「《編集》を意識して発動させるには一種の訓練と少しの才能が必要なんだ、とても複雑で私たちの思考外の力だからね……」


「それはどうやって練習したら良いんですか?」


彼女は顎に手を当てて考える素振りを見せると、思いついたようにゼノの方を見る。


「……本、あるよ」


(マジかよ!欲しい!)


そんな様子を察したのか彼女な苦笑する。


「何ならあげても良いけど」


「ぜひ、お願いします!」


彼女がパチンと指を鳴らすと、《ゼノの手にはいつの間にか一冊の分厚い本が握られていた》。


(この中に《編集》の使い方が!)


本を開こうとしたその時、激しいめまいに襲われてその場に倒れる。


(なんだ……この感覚、やばい……)


「大丈夫?」


彼女はそう言うと本を拾い上げてマントの下に仕舞う。


「なんなんです……これ」


彼女はしゃがみこんで、ゼノに目線を合わせる。


「正直、分からない……何かの呪いかな?」


その時、ゼノの脳裏に選抜試験の時のテラの声が響き渡る。


「権限は無いはずッ!?」


(もしかして……権限とやら関連?)


その時、目眩が嘘のように消え去る。


彼女の方を見ると、少し考え事をしているように指を顎に当てて、薄い水色がかった色の長い杖をこちらに向けていた。


「楽になった?」


彼女は落ち着いた様子で言う。


「はい……ありがとうございます」


その時、どこからかズシンという鈍い音が響く。そして白い空間が振動を始める。


「うわっ!?」


ゼノは慌ててその場にしゃがみこむと、空間が音を立てて崩壊して行くのが見えた。


「……時間切れかな、ごめんね」


彼女がそう言うと彼女は浮き上がり、崩壊した空間の裂け目に向かってゆっくりと進んで行く。


そして彼女はゼノに背を向けたままこう告げる。


「また会えるといいね……」


その声が何度も木霊して後ろに引っ張られるような感覚を最後に目が覚める。

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