予期せぬ事

「……何の用や?サラマンドラ」


ルーメンは刀に片手を載せながら整った軍用コートを着てサングラスを掛けたニット帽の人物を睨みながら聞く。


「仲間が怪我してるからな、助けに来るのは当然だろう?ルーメン」


そう言った瞬間にルーメンが一瞬動いたかと思うとその人物は袈裟斬りされてしまう。


「くッ!!」


しかし、斬られた箇所からは血液ではなく多量のスライムが溢れ出す。


「アイツはそんな綺麗なコートは着へんわ……ストゥルティはん」


ルーメンはそう言うと一瞬でゼノの近くに行き、かがみ込んで聞く。


「傷はどうや?楽になっとるやろ?」


「……え?」


ゼノの体調はすこぶる良く、先程まで死にかけていたとはとても思えない。


「ありがとうございます……いつの間に?」


「フォルスをだまくらかした時やで、回復魔法ぶん回しといたんや、平気か?」


クナイの刺さっていた場所の衣服は破れて血が付着しているが、傷は元から無かったかのように塞がっていた。


「大丈夫です……えっと、クナイはいつの間に抜いたんですか?何も感じなかったんですけど……」


ゼノはそう言うとルーメンはニヤリと笑う。


「光の速さで引っこ抜いて、回復魔法掛ければわからんやろ?」


(成程……イカれてる)


「後はボクが何とかするで、そこで見とき……手柄は君にあげるからなぁ!」


ルーメンはそう言うとそっと立ち上がり刀を握る。


「長い事潜入してたなぁ、ストゥルティ」


そう言うと同時にサラマンドラ?へ無数の斬撃を一秒と経たずに叩き込む。


しかし、その全ての斬撃はスライムに受け止められてしまう。


「鬱陶しいのぉ……たまにはぁ、本気でやってみよか」


ルーメンの目が一瞬開かれる。


「『居合』」


その瞬間だった。ゼノは思わず目を閉じてしまう程の閃光と衝撃音が響き渡る。


(なにが……)


その瞬間、サラマンドラはそこに立っていなかった。


「……貴方はッ!?」


ゼノは代わりにそこに立っていた人物を見て驚愕する。


「ラウルスさんッ!?」


「バレてしまってはしょうがないですね〜」


ラウルスの服装は研究部で見た時とほとんど変わって無かったが、両手には真っ黒なグローブがはめられ、複雑な装置が身体に付けられていた。


「ええっ!?ラウルスちゃんやったんかぁ!?ごめんなぁ、」


ルーメンは激しく取り乱してあたふたとしだす。


(この人は……いや、もう……)


ゼノはルーメンに諦めの視線を向けるが、ストゥルティは笑顔でその様子を見守る。


「OCOも悪く無いんですけどね〜テンプスちゃんも可愛いですし……ご飯も美味しいのですが、」


彼女の手に吹き飛ばされたスライムが集まり、剣の形に伸びていく。


「ですが、私が忠誠を誓ったのはディヴィデですので〜……消えてもらいます、ね!」


スライムの剣を床に突き刺すと魔法陣が現れ、ゼノ達は海賊船の外に吹き飛ばされる。


「うわわっ!?『バインド』ッ!」


ゼノは咄嗟に海賊船に捕まろうとバインドを放つが、吹き飛ばされた速度が早すぎてバインドが届かずに、空を切ってしまう。


「そんなっ!?……て、ワッ!?」


ゼノはルーメンに空中で掴まれていた。


「おー、危なかったなぁ。もうちょい遅かったらハンバーグになってたでー」


「あ、ありがとうございます……って!あの海賊船を追わないと!」


ゼノがルーメンに言うと彼は首を傾げる。


「別にええやんか?」


「……へ?」


(なに言ってるのこの人!?)


「冗談や、コアには触れさせへん、マリナちゃん怒らしたら怖いからなぁ……」


ルーメンはそう言うと空中で居合の姿勢を取る。


「久々にやらせてもらうで」


「え……さっきの居合ですか?危ないですよ!?コアがあるんですよ!?」


すると、ルーメンは不敵に微笑む。


「任せときぃ、さっきとは比べ物にならない程ヤバい奴や」


「えぇ!?何で!!?」


慌てふためくゼノを尻目にルーメンは深呼吸してから、静かに口を開く。


「『奥義・空間切削』」


その言葉と同時に刀を鞘に納めるとその瞬間、強烈な閃光が一瞬走る。その閃光が止むと、一瞬にして海賊船のど真ん中から斜めに一直線に巨大な空間の斬痕が現れ、船体ごと切り裂き、二つに割れたそれを飲み込んで行く。


「な、なんですかアレは!?」


ルーメンはその一撃で満足したのか裂け目を見ながら笑顔で呟く。


「……カッコええやろ?」


その時、ゼノの頬を風が撫でる。


「……?」


みるみるうちに風は強くなって行き、ゼノは恐る恐るルーメンに聞く。


「あのー……、僕達裂け目に吸い込まれません?」


「んーなわけ……ん?」


その風は裂け目の向こうから吹いており、だんだん裂け目が大きくなっていく。


(……何かヤバい気がする)


ゼノがそう考えた束の間ルーメンが笑顔で言う。


「やっちゃったー……てへっ」


「ダァぁぁぁぁああああああっ!?」


二人はその風に吸い込まれていきながらルーメンが頭を搔きながら言う。


「まあ、落ち着きー……コアの近くにあるから空間が歪みやすいだけや、もうじき閉じるはずやで」


その時、周囲に景色が激しく揺れる。


よく見ると、コアの位置が魔法陣からズレ始めていた。


「これまずい奴ですよね……?」


「かなり不味いなぁ、」


ゼノ達はそのまま風に吸い込まれ続けて行くと、空間の裂け目が目の前に近づいてくる。


「……あちゃー……」


ゼノは目を凝らすとその先に見えた物は……真っ暗闇だった。


(今度こそ、死んだか僕……てか、死にかけすぎじゃない?)


その時、頭の中にあの時の感覚が思い起こされる。


テラと戦った時、サランの領主を救おうとした時、あの時の不思議な感覚が、それを強く確信させる。


(今なら"アレ"を出せる)


そう思った瞬間だった。ゼノとルーメンは空間の裂けは塞がる。


その時ゼノは確かに目にした、数多の言葉で世界が構成されている景色を。


そして、その言葉達が組み代わり、若しくは現れて空間の穴を塞いでいく様を。


(これは……!?)


そう思った時にゼノの意識は暗転する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る