第6話 神隠しの不思議 

おっはよ~!まどかだよぉ!

みんな元気ぃ~?

……コホン。

朝岡まどか、二十歳です。カメラマンやってます。

ってそろそろこのフレーズ、必要なくない?

あ、まだ続けるの?あ、はい、わかりました。

……ところで、そこの物陰から見ているのは、彼女ちゃんじゃない?

今日は一人なの?

もしかして振られちゃった?

……ってゴメン、ちょ、ちょっと……そんなに怒らなくてもいいじゃないのよ。

もしかしてホントに?

……あー、ハイハイ、付き合ってないのね。

……まったく、面倒ね。あんたら早く付き合っちゃえば?

ハイハイ、余計なことは言いませんよ。それより今日はどうしたの?

えっ?深山村での出来事が聞きたい?

あ、うん、どうしようかなぁ。

実は誰にもしゃべらないで、って言われてるのよねぇ。

……それでも聞きたいって?

う~ん……まぁ、別にしたわけじゃないし、ならいいかな?


今頃になると、あっちこっちでお祭りってあるでしょ?

あのお祭りって、元々意味があるモノなんだけどね、時代と共に意味が忘れられていって変質しちゃってるのよ。

で、形骸と化した形だけが残ってるのね。……まぁ残ってるだけマシって事もあるけど。

だけど、田舎の方では、その本質が変容しないように代々守っていてね、深山村のお祭りもその一つなんだけど……。



「センパーイ、お祭りどうします?」

私はベットで布団をかぶっている美並先輩に声をかける。

「うぅ、24人いるよぉ……。」

「センパイってばぁ……。」

「うー、お外怖いのぉ。」

「えっ、きゃっ……。」

 布団を剥ぎ取って再度声をかけると、美並先輩がしがみついてくる。

「えっと、センパイ?そろそろ離してくれないと襲っちゃいますよ?」

「いいから、離れちゃいや。」

いいんかいっ!

こんな可愛い姿見たら、男じゃなくても、襲い掛かりたくなるのよね。

全く美並先輩は魔性の女ですよ。

「ハイハイ、じゃぁ今夜襲ってあげますから、とりあえずお祭り行きましょ?やたいもでてるらしいし、騒いで忘れましょ。」


美並先輩がこんなに怯えているのは、丸山小学校での撮影が原因なのよ。

まずは個人写真を撮ったんだけどね。

一応、私主導って事だから、私が撮影して、美並先輩には名前チェックをお願いしてたのよ。

みんないい子達ばかりで、何事も問題なく撮影は終わって、その後も特に問題はなかったのよ。

で、この宿に戻ってきて、とりあえず会社のサーバーにデータをアップしておこうという段階で……気づいちゃったのよ。個人写真のデータが24人分あることに。

えっ、私?

私は気づいてたよ?

だって撮影しながら、「一人、二人……」ってカウントしてたもん。

でもねぇ、校長先生も、担任の先生も「そういうものだから」っていうから気にしないようにしてたのよね。

チェックしていた美並先輩も何も言わないから、てっきりスルーすることにしたんだと思ってたんだけどね。


「だって、だって、まどかちゃん、24人いるのよ?私ちゃんとチャックして、名簿通りの23人だったの確認してるのよっ!まどかちゃんは何で平気なのっ。」

「えっと、平気ってわけじゃないんですけどぉ……。」

これはアレだね、最初にパニック起こされたら、逆に平静になれるってやつ。

「美並先輩の怖がりっぷりを見てたら、なんか平気になりましたよ。」

「なんでっ!ズルいっ!」

「いや、ズルいって……。そんな事より、お祭りに行かないならご飯食べに行きましょ。私お腹すきました。」

「行かない……一人で行ってきて。」

「……まぁ、センパイがそう言うんだったら。じゃぁ、一人でお留守番お願いしますね。」

私はそう言ってベッドから降りようとすると、ふいに服が引っ張られる。

「やっぱり行く。……おいてかないで。」

「はいはい、じゃぁ、センパイ少しは身だしなみ整えましょうねぇ……ほんと、センパイは可愛いですねぇ。」


「まどかちゃん、型抜きだって!ホントに存在するんだねぇ。あ、あっちは……¥ドジョウ掴み?何それ?」

美並先輩が、屋台を見ながらはしゃいでいる。

お祭りも屋台も初めてじゃない筈なのに、なんだろうね、この可愛い生き物は。

「はぁ、センパイ、男の人とお祭り行ったことあります?」

「ないわよ?まどかちゃんはあるの?」

「私は幼馴染と……。じゃなくて、センパイ、余程信頼できる男の人以外とお祭り行かないほうがいいですよ。」

「へっ?なんで?」

「お持ち帰りされちゃうからですよ。可愛いうえに隙だらけ……私でもお持ち帰りしたいっ!」

「ん?ん??」

だけど美並先輩には私の言う事が伝わらないみたいで、首をかしげている。

「はぁ……もういいです。センパイはずっとそのままでいてくださいね。」

今の美並先輩を見たら、自称紳士の三宅先輩でもグラつくことは間違いないよね。

私はせめてもの嫌がらせに、と美並先輩の可愛い行動を動画に収めて、三宅先輩に送っておく。

返信がウザいのは分かり切っているから、送信した後は電源を落としておくのも忘れない。


「ところで美並先輩……って、えっ?」

一瞬眼を離しただけなのに、目の前に居たはずの美並先輩の姿がない。

「センパーイ。美並先輩~!」

大声で呼んでみるが反応はない。

「もぅ、センパイったら、どこ行ったんですかぁ。」

私は呼びかけながら周りをまわってみるが、センパイの姿はどこにもない。

「あ、そうだ、スマホ……。」

私はバックからスマホを取り出し電源を入れる。

「圏外……ってさっきは電波繋がってたよね。」

私は、念のために美並先輩にメッセージを送ってみるが、送信できなかった。


「うー、センパイどこぉ?……ん?」

センパイを探して歩きまわっていると、ふいに服の裾を掴まれる。

「きさらちゃんのママ……迷子なの?」

私の服を掴んでいるのは5歳ぐらいの女の子。

「えっと、人違い……かな?私に娘はいないよ?」

「きさらちゃんのママ、あっちだよ。」

女の子は私の言葉には答えず、手を掴ん引っ張っていく。

「だからぁ、迷子なのは私じゃなくてっ……。」

私はその女の子の手をしっかりと握ってあげたのよ。

だってね、とっても冷たかったの。

きっとこの子は手がこんなに冷たくなるほど迷子になってたんだって思ったのよ。

だからせめて私の手で温めてあげよう、ってね。

おかしいかな?


「きさらちゃんのママ、綿飴売ってるよー。」

「欲しいの?買ってあげようか?」

「ううん、いい。ここのは食べちゃダメなの。」

「しぃっ!」

 私は慌てて女の子の口を塞ぎ、その場から離れる。

「いーい?そう言う事はお店の前では言わないのよ。」

「はぁーい。あ、あっち行ってみよー。」

駆け出す女の子の後を、追いかける私。

美並先輩の事も心配だけどね、あんな小さな女の子を放っておけないでしょ?

それに、お祭りの会場はそれ程広いわけじゃないから、あの子と歩き回っていれば、見つけれると思ったのよ。

「ハァ、ハァ、はぁ……もう走れないよぉ。」

「あはは、きさらちゃんのママ、トシなのぉ?」

「こら、どこでそんな言葉覚えてくるのよ。」

「みんな言ってるよぉ。セイちゃんもトシ君も、もうトシだから身体を動かすのが辛いって。」

トシだから辛いって、どんな幼児よ。まぁ、周りの大人の言葉真似してるだけなんだろうけどね。

「そんな事より、あなた帰らなくていいの?それとも本当に迷子なの?」

この女の子と祭り会場を走り回って30分ぐらいだろうか。小さな子が行動するには遅い時間だし、親御さんも心配しているだろう。

それに、いまだ見つからない美並先輩の事も心配なのよ。

「あ、そうだね、そろそろ帰ろっか。」

女の子は私の手を引いて会場の外れまで行く。

「ここ真っ直ぐ行けば帰れるからね。」

「ちょ、ちょっと、帰るのは私じゃなくてあ……。」

私が言い終えないうちに女の子に体を突き飛ばされる。

不意を食らったせいで、身体のバランスを崩し、よろけて2,3歩下がったところで倒れ込む。

途端に目の前が暗くなる……。

……またね、きさらちゃんのママ。

そんな声が聞こえたような気がしたの。



「……ちゃん、まどかちゃんっ!」

「……あ、美並先輩。ぶじだったんですねぇ。よかったです。」

「よかった、じゃないわよっ!ずっと探してたのよっ!心配したんだからねっ。」

私に縋り付いて泣き出すセンパイ。

探してたの、私の方なんだけどなぁ……。


「お、見つかったのかい?」

「あ、えぇ、おかげさまで。どうやら迷子になってたみたいで、心配おかけしました。」

「いやいや、見つかってよかったべさ。この辺りは神かくしっちゅうもんがあるでなぁ。」

「神隠し?」

「あ、あぁ、イヤ……町のもんには関係ない話だべ。そんなごとより、そろそろお祭りもお終いだべ。楽しんでいってくんろ。」

 美並先輩と一緒に渡しを探してくれていた村の人たちが、口々にそう言いながら会場の中央へと戻っていく。

「詳しい事は後にして、とりあえず私達も行きましょ。」

「あ、うん、わかりました。」

私は美並先輩と中央の広場へ向かったのよ。

そこには大きな篝火がたかれていて、村の人たちが何かを火にくべて、手を合わせている。

「あれは何をしているのかしら?」

「あ、えっとですね……、今年生まれた子供の名前を人型に書いて火にくべて無病息災を願う……って事らしいです。」

私はお祭りの概要が書かれたパンフレットの一部を読み上げる。

「何でも、その昔、この地にいた神様が、道に迷った村の子と友達になり、この村が災害に見舞われた時、その友達になった子と近しい者達が災害を免れたそうです。それ以後、村の人達は生まれた子供の名前を書いて「みんな神様のお友達ですよ」と捧げたのがお祭りの始まり……なんですって。」

「そうなのねぇ。じゃぁ、神様も友達が一杯で嬉しいのかな?」

「そうかもしれませんねぇ。」

私と美並先輩は、天にまで届けと言わんばかりに激しく燃え盛る炎を見上げながら、そんな事を話していた。



「それは神隠しかもしれませんねぇ。」

翌日の朝、丸山小学校の校長室でコーヒーをいただきながら、昨晩起きた事を話すと、目の前の校長先生がそんな事をいいだす。

因みに、私の視点からでは急に美並先輩が消えて、30分ほど探し回っていた、という感覚だったんだけどね、美並先輩の視点からだと、私が急に消えて、2時間近く探し回っていたっていうのよ。

確かにね、実際に過ぎている時間から言えば美並先輩の言う事の方が正しいんだけど、この時間のずれって何なんだろうね。

そんな事を話したら帰ってきた言葉が『神隠し』

私の中で、何かがストーンと納まった感覚があったわ。


「いえね、昔からこの村の子供が不意に姿を消すことがよくあるんですよ。大抵は数日後に見つかるんですけど、子供たちは皆一様に「遊んでいた」というだけでしてねぇ。」

「子供……なのね。」

美並先輩が私をちらっと見てクスッと笑う。

いや、センパイ、私がいくら童顔だからって、ソレは失礼だと思うよ?

「いえ、子供ばかりでなく、稀に妙齢の女性が迷う事もあるそうです。」

「ですよねぇ。」

校長先生の言葉に、つい大きく頷く私。

「ただ、その女性というのは決まって未婚の女性なのですが、迷った先で「○○ちゃんのママ」と呼ばれるそうなんですよ。その事は暫くすると忘れるそうなんですが、子供を授かると不思議なことに、ふいにその子供の名前が浮かび上がるそうで、『あぁ、この子は○○ちゃんなのね』と思うそうです。」


話を聞くと、校長先生の母親も、その昔神隠しにあったそうで、校長先生がお腹にいる時に、名前が浮かび上がり、つけられたのだと母親に聞いたんだって。

そんな逸話が、昔からこの村にはあって、その事から、『この村で神隠しに合うと子供の名前を授かる=子供を授かる』ってことで不妊で悩んでいる女性が訪れることが多いんですって。

私結婚する気はないんだけどねぇ。


「そんな事があるんですね。不思議な事が起きるのはこの村の特徴なんですか?」

美並先輩が少し嫌味を含めた口調でそんな事を言うの。

まだ、昨日の件、引きずっているのね。

「そうかもしれませんね。」

昨日の事は校長先生にも報告してあるので、苦笑しながらそう答えてくれたのよ。

「ただ、この村の中ならともかく、よそではあまり言わないほうがいいですよ。この村の神様は騒がしいのがあまりお好きではないようで、以前この村の事を大げさに触れ回った人がいて、TV局の取材とか来たこともあったのですが、触れ回った本人を含め、関わったTV局の関係者が、次々と不幸に見舞われましてね、それ以降、誰も口にすることは無いのですよ。」

それを聞いて美並先輩は顔を青ざめさせ、私は、よく言われる話ですよね、と適当にお茶を濁しておいたのよ。



まぁ、そんな事があったって事だけど……、これで満足?……”めぐみ”ちゃん?

あ、そんな怖い顔しないでよ。言ったでしょ「約束」してないって。

それに”本人”になら問題ないと思うんだけどね?

……あ、うん、帰るの?気を付けてね。

ん?また遊びに?ん~、あんまりオカルト好きじゃないのよねぇ。

でも、まぁ、美並先輩を堕としたいって思った時にはいくことにするよ。

えっ、センパイが可哀想だからやめてあげてって?

ん~、考えておくよ。


……あ、うん、気を付けて、またね~。








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