第5話 スクエアの不思議

 おはよう!……それともこんにちわ、かな?

 朝岡まどか、二十歳、今日も元気です!

 ってキミ、今日も元気ないね?この間の彼女に振られた?

 あはは、そんなことないよね……ってマジ?振られたの?

 あー、えーと……まぁ、元気だしなよ。まだ若いんだし。

 あ、もちろん私も若いよ、二十歳だしね。

 若いうちは色々あるものなのよ……ってあそこにいるの彼女さんじゃない?

 振られたんじゃないの?って、誰もそんなこと言ってないって?

 あー、ソウデスカ、ソウデスカ、若いもんはイチャイチャしてればいいよ……私の目の届かないところでね。


 で、今日はどうしたの?デート?

 って……彼女ちゃん近いよっ!えっ彼女じゃない?私を妹にしたい?

 何言ってるのかなこの子は?私一応二十歳なの。妹じゃなくてお姉様でしょ?

 えっ、お姉様って呼んでいいかって?……あー、うん、、まぁ、いっか。

 ……キミね、ちゃんと彼女ちゃん捕まえておきなよ。

 

 えっと、それで今日はどうしたの?

 えっ、また話が聞きたいの?

 あのねぇ、前も言ったけど、一応仕事中なんだけどねぇ……まいっか。

 

 私の職業、カメラマンってこと知ってる?知らない?

 カメラマンなのっ!お話のお姉さんじゃないからねっ!

 コホン……まぁいいや。


 卒業アルバムってあるでしょ?その中に必ずあるのが個人写真。

 みんなが笑顔で写ってる、素敵な写真。

 写される側の時は気にしてなかったけど、写す側になって、大変さが身に染みるわ……。やっぱりプロって、どの業界でも大変なのよね。

 カメラマンてね、撮影するよりその後の作業が、地味で、大変だって知ってた?

 アルバムに乗せる個人写真もね、たくさん撮った中から、一番いい表情を選んで、名簿と照らし合わせて、名前のチェックして……と大変なのよ。

 チェックしていると、「クラス全員撮影したはずなのに、人数が合わない!」なんてオカルトじみたこともよくある話なのよね。

 一番の傑作だったのが、この間あった、25人のクラス、全員撮影したのに写真が24枚しかない……という事件。

 何度、写真と名簿を照らし合わせても、間違いはなく、写真は24枚、名簿は25人。

 普通なら、撮影し忘れとかチェックミスとかって事で終わるんだけどね。

 これ、私も撮影現場でチェックしてたからわかるんだけど、確かに25人撮影したのよ。

 名簿と照らし合わせてて、写っていない子の名前も分ってるけど、その子を撮影したのは、私もはっきりと覚えているわ。

 そんなオカルトなんだけど、実は……その子は双子で、チェックの時に、同じ子だと思って省いちゃってた……ってオチなんですよ。

 現実はこんなもんなのよ……普通はね。

 

 でもね「学校の怪談」って話があるくらいには、不思議な出来事が起きるのが学校ってところなんですよ。

 今日はそんなお話を一つ……。


 アッと、最初にお断りを入れておくね。

 この話の中の学校名や個人名などは全て架空のモノです。

 最近個人情報とかうるさいからね、ほんとの学校名や個人名を晒すわけにはいかないのよ。



 「まどかちゃん、こっちもお願いね。」

 美並先輩から、新たな作業指示書が回ってくる。

 もうすぐランチタイムなのに、このタイミングで?

 思わず美並先輩を見上げる。

 

 「そんな顔しないの。写っている人数数えるだけだからすぐ終わるわよ。終わったら一緒にお昼行きましょ。」

 「ハーイ……センパイ、私、今日アンブロアの気分です。」

 「はいはい、じゃぁ、それお願いね。」

 美並先輩はクスリと笑うと、自分の作業に戻っていった。


 「さて、と……人数数えればいいんだよね?」

 私はサーバの中から指示にあった該当のデータを引っ張り出す。

 「お、集合写真だね。みんな元気いっぱいだねぇ……っと、いち、にぃ、さん……。」

 私は写っている人数を数えていく。

 名簿では男の子12人、女の子11人の計23人だ。

 つまり、23人いれば問題なし……っと。

 「……にじゅういち、にじゅうに、にじゅうさん、にじゅうよん……二十四!?」

 私はもう一度数えたのよ。

 さらにもう一度……もう一度……。


 「うぅ……。」

 「あれっ?まどかちゃんまだ終わらないの?……どうしたの?」

 頭を抱えて唸っている私に、美並先輩が声をかけてくる。

 「二十四人いるんですぅ……。」

 「えっ……あぁ……丸山小学校かぁ……24人いるのは間違いないのね?」

 「はぃ……10回以上数えましたぁ……。」

 見ると、美並先輩は心なしか青ざめている……やっぱり大きな問題なのかなぁ?


 「……うん、いいわ。とりあえずお昼行きましょ。」

 「……いいんですか?」

 「丸山小学校でしょ?……大丈夫だから、とりあえずはご飯ね。」

 私は、美並先輩とランチに出たんだけど、妙に明るく振舞っている感じに見えるのが気がかりだったのよ。


 

 「今日のも美味しかったですね。」

 「そうね……ところでまどかちゃん、ケーキ食べる?」

 「食べるっ!……って言いたいんですけどねぇ……今月ピンチなんですよ。……予定してたバイト代も入らなかったし……。」

 お盆にいれていたバイトが、ちょっとした事故の所為で行けなくなったおかげで、今月は切り詰めないといけない。

 「この後、このままここでミーティングだから、経費で出してあげるわよ。」

 「えッ、いいんですか! じゃぁ、DXモンブランくださーい。」


 私と美並先輩は、ケーキセットを追加注文してからミーティングに入った。

 ミーティングって言っても、私が説明を受けるだけになりそうなんだけどね。


 「……って事なの。ここまではOK?」

 「はい、大丈夫です。」

 「じゃぁ、次に入る前に……ケーキ食べちゃいましょうか?」

 「そうですね。」

 「ケーキがのどを通らなくなったら大変だものね。」

 「ウグッ……。」

 センパイが、物騒なこと言いだしたよぉ。

 なに?喉を通らなくなるような話なの?

 「何なんですか、その物騒なセリフ。」

 「さぁ?」

 センパイはクスクス笑っている。


 「さっきの丸山小学校ね、ウチが手掛けるの今年からだって、知ってた?」

 美並先輩が、紅茶を飲みながら話を振ってくる。

 「そうなんですか?知りませんでした。」

 「まぁ……色々曰くがあってね、前の業者が放り投げちゃって……ウチに回ってきたのよ。」

 「えぇー、曰く付きって……。」

 「だから、まどかちゃんが担当ね。」

 ぶふっ!

 「何、いきなり……。」

 唐突過ぎて言葉にならない。

 「曰く付き物件は、まどかちゃん担当って決まったのよ。」

 「何それ……聞いてないんですけど?」

 ……曰く付き物件担当って……もう泣きそうだよ。

 確かに、目の前の美並先輩はそう言うの苦手だって言うのはわかるけどぉ……。


 「まぁ、冗談は置いておいて……。」

 冗談だよね?本当に冗談なんだよね?

 「まどかちゃんはウチの学校アルバムの代金覚えてる?」

 「はい、えーと1学年200人以上の場合は1万円前後、70~200の間なら1万3千~1万8千円前後、70人以下の場合は2万超えるけど応相談……。」

 これは入社してから最初に覚えさせられた。

 写真の相場なんてあって無いような物……近隣同業者との兼ね合いで決まることも多いから、一定の基準を作っておかないとあっという間に価格崩壊を起こして潰れていくのだそうだ。

 事実、無茶な価格低下競争を起こして、最終的に、双方共倒れになったなんて話もよく聞く。

 健全な経済を回すためにも、適正価格の設定は必要で、取引先と円滑に契約の話をするうえで、会社内での価格基準を覚えておくことは大事なんだと、叩き込まれた話なのよ。


 「うん、その通り。よく覚えてるわね。」

 良い子良い子と頭を撫でてくれるけど、覚えるまで鬼の形相で睨んでいたのは目の前にいるこの優しい先輩だという事を忘れてはいないからね。

 「でね、その丸山小学校だけど、6年生23人しかいないでしょ?いくらでやる事になったと思う?」

 「えーと……ウチの相場計算だと……あ、でも…………4万超えるんですけどぉ?」

 「そうね、その人数ではウチで受け入れられない、やるなら最低4万5千以上になるのよ……さすがに無茶でしょ?」

 「そうですね。」

 アルバム1冊4万以上……ないわー。

 「だからね、2万でやる代わりに色々条件がついてるの。その中にね『新人育成を兼ねる』って言うのがあるのよ。」

 そう言って美並先輩は私を見てにっこり笑う。

 「それって……つまり……」

 「そう、新人さん……まどかちゃんが担当として経験を積む場所として契約してあるのよ。」

 「はぁ……担当は嬉しいですけど……よりによって曰く付きですかぁ……ところでその「曰く」って何ですか?」


 「……実はよく分かってないのよ。噂はあるんだけどね……私こういうの苦手だから。」

 美並先輩が困ったように笑う。

 こういうところが可愛いんだよね、このセンパイ。

 「噂だけでもいいです。聞かせてください。」

 こういうのは心構えの問題だろうから、出来るだけ情報は集めておきたいな。


 「うーん……そうねぇ……まどかちゃん「スクエア」って知ってる?」

 「ゲームメーカーですか?」

 「……まどかちゃん、最近三宅君に似て来たわよ?」

 「冗談ですよ……怪談の……ですよね?」

 暗闇の部屋で、4人がそれぞれの角に立って、一人目が次の角まで進み、二人目の肩を叩く。

 肩を叩かれた二人目が次の角に進んで……って繰り返していく。

 だけど、本来なら4人目が進むと、そこに誰もいないはずなのに、なぜか止まることなく続いていく……。

 おかしいことに気づいた一人が、進行を止めて電気をつけると、その場には5人いる。

 始める前は確かに4人だったはずなのに……だけど知らない顔はない……誰が5人目?


 「……ってやつですよね?」

 「……まどかちゃん、詳しいのね。」

 美並先輩がブルブル震えている。

 可愛いなぁ、もぅ……抱きしめたくなっちゃうよ……おかしぃなぁ、その気は無いはずなんだけど……?

 

 「で、美並先輩が可愛いのは置いておいて、スクエアがどうしたんですか?」

 「私が可愛いって……しかもスルー……ま、いいわ。あなたも、さっき体験したばっかりでしょ?」

 「さっきって……えぇー!アレそうなんですか?」

 集合写真……名簿では23人なのに24人写ってた集合写真。アレがそうだって言うの?

 「丸山小学校の6年生は23人間違いないわ。転校生も転入生もいないのは確認済よ。」

 「うぅ……どうするのよぉ……リアル心霊写真だよぉ。」

 「でね、明後日から2泊3日で丸山小学校の撮影に行ってもらうからね。」

 「えぇー!泊りって聞いてないですよ!」

 「だって、行くだけで3時間以上かかるのよ?十時過ぎに帰ってきて、朝3時起きなんて事を3日間させるようなブラックな会社じゃないのよ?ウチは。」

 ……いや、結構ソレに近い事やってるって聞いてますよ?。


 「明後日は6時出発、現地に到着したら簡単な打ち合わせと準備して、3時間目に個人写真と集合、4時間目に授業風景を撮影後、給食、掃除風景を撮影して、放課後に委員会活動の写真、それが終わったら翌日の打ち合わせ……。」

 美並先輩がスケジュールを教えてくれるので、私はそれをメモしていく。

 「……で、最後にクラブ活動の撮影をした後、今後の調整と打ち合わせを確認して、帰社。わかった?」

 「……はい、大丈夫です。」

 「基本的にまどかちゃんがやるんだからね。私は撮影の手伝いとフォロー。……失敗しても何とかしてあげるから、堂々としてなさい。」

 「はーい、がんばりまーす。……で、例の事はどうすれば?」

 「放置よ放置!私は知らない!オカルトなんてありえない!」

 ……美並先輩が壊れた?

 「うぅ……行きたくないよぉ……でもまどかちゃん一人で行かせるわけにもいかないし……かといって、三宅君と一緒って言うのも色々問題あるし……。」

 美並先輩がぶつぶつ言っている。


 「ふぅ……一応確認だけはするけど……たぶんそのままだと思うわよ。」

 美並先輩ががっくりと肩を落とす。

 何とか気持ちに折り合いをつけたみたい。


 「うぅ……まどかちゃん一人で行ってみる?」

 折り合いついてなかった。

 「まぁ、行けというなら……」

 「はぁ……そう言うわけにいかないのは分かっているのよぉ……まどかちゃん、最近三宅君と仲いいみたいだけど、そういう関係?なら、私三宅君と変わっても……」

 「……センパイ、私だって、怒るときはあるんですよ!」

 このセンパイは……怖いのわかるけど、言うに事に欠いて……こうなったら……。

 「私ぃ……センパイとならぁ……そう言う関係になっても……ぽっ*」

 ちょっと上目使いで囁くように言ってみる。

 あざといポーズや言い方なんかは目下研究中なんだけど、旨く出来たかな?

 「はぁ……ありがとうね、まどかちゃんがバカやってくれたおかげで少し落ち着いたかも。」

 ……ダメだったっポイ。

 「まぁまぁ、私、美味しいお菓子持っていきますから。」

 「もぅ……遊びに行くんじゃないからね。」

 美並先輩が苦笑している。よかった、ちょっとは持ち直したかな?

 でも、まぁ……私も怖いのよ?


 「とにかく、機材とお泊りセットは入念にチェックすること。向こうは田舎だからね、足りないものを買うって事は出来ないと、思っておいた方がいいわよ?」

 「ハーイ。」


 

 この翌々日から2泊3日で私と美並先輩は丸山小学校のある深山村で過ごしたんだけど……まぁ、色々あったのよ。

 詳細については、また今度……すごく長くなっちゃうからね。

 小学校の件に関しては……


 「あぁ~、もぅ!……23人と24人……うぅ……。」

 私は帰ってきてから撮影データと名簿を前にして頭を抱えてたの。

 写ってる個人写真は24人……名簿は23人。

 順番に名簿と照らし合わせればいいって思うでしょ?

 それくらいはやってるのよ。

 1人目から順番に照らし合わせて……最後はぴったりと合うの。

 でもね、24人分のデータが存在してるのよ。


 私の頭の中には「認識疎外」っていう単語が浮かぶのね。

 だてにサブカル系の友人がいる訳じゃないのよ!。

 だけどね、だけどねっ、現実でこんなのありえないでしょ!


 美並先輩は、帰ってきてから、寝込んじゃって、まだ会社に来てないし……。

 他の先輩は役に立たないし……。

 どうすればいいのよ!


 校長先生と担任の先生とも話したわ。


 「朝岡さん、この学校では昔からそう言う事があるんですよ。」

 「えー、でもそれじゃぁ困りませんか?」

 「あまり困らないですねぇ。……それに卒業式の時は元の人数になってますから。」

 みんな、顔見知りなので、不審人物が紛れ込んでいるわけでもない

 授業に影響があるわけでもないし、それで何か起きたって話も聞かない。

 特に被害があるわけでもないので問題ないそうだ。

 「だから、気にせずに進めてくださいね。心配しなくても、アルバムが出来た時には、ちゃんと23人になってますから。」


 まぁ、一人増えているって時点で十分不審者って気もするけどね。

 校長先生が言うには「気にしないのが一番です」だって。


 ってことは、これも気にせずまわしちゃえばいいのかな?

 撮影してた時、みんな楽しそうだったし、悪いモノ……じゃないよね?



と、まぁこんな事があったんだけど………。

えっ、何があったか詳しく聞きたいの?

これだけじゃ不思議でも何でもない?

んー、そうは言われてもねぇ。

じゃぁ一つだけ………。

24人目は確かにいたのよ。

それ以上のことは、また今度ね。

 

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