第36話
勉強会の成果があり、テストはいつもより高い点数が取れた。
氷岬には感謝しなくてはならない。
「テストも終わったし、この四人で打ち上げ行かねえか」
駿がそう提案してくる。勉強会をした面子で遊びに行くということなら、大歓迎だ。駿を応援するという意味でもダブルデートみたいな感じに持ち込めるし悪くない。
「いいな、どこ行く」
「そこは今回の勉強会のMVP。氷岬さんの行きたいところに決まってるじゃねえか」
駿はそう言うと氷岬を見る。氷岬は自分に水が向けられると思っていなかったのか、少々面食らっている。
「私が決めていいのかしら」
「いいに決まってるじゃん。俺たちみんな氷岬さんのおかげでいつもよりいい点数取れたんだからさ。その権利はある」
有無を言わせぬ駿の迫力に俺たちは皆一様に苦笑する。
「そうだね。私も氷岬さんが決めていいと思う。私も点数上がったし」
渚も賛同したことで、行先は氷岬が決めることになった。
「じゃあ、ラウンドスポーツに行ってみたい」
氷岬が満を持してそう言った。
「ラウンドスポーツか。まあこの面子で遊ぶならちょうどいいんじゃね。色々あるし」
ラウンドスポーツ。大型アミューズメント施設だ。ボーリングを始めとした色々なスポーツを楽しめるエリアがあったり、カラオケもある。大人数で遊ぶのならうってつけの場所だ。
「それにしても意外だな。氷岬がラウンドスポーツに行きたいって言うなんて」
俺がそう言うと、氷岬は少し恥ずかしそうに顔を伏せると、上目遣いで言った。
「興味はあったけど、私、友達いなかったから」
またそんな反応に困る返答を。
「まあ、だったら俺たちで氷岬さんのラウンドスポーツデビューを盛大に飾ろうぜ」
お調子者の駿が手を叩いて盛り上げる。
「それじゃ、このまま行こうよ。氷岬さんの完治祝いも兼ねてさ」
氷岬の足はつい先日完治した。不便な生活ともおさらばだ。
そうして俺たちは学校を後にし、ラウンドスポーツに向かう。
ラウンドスポーツに着いた俺たちは定番、ボーリングで遊ぶことにする。
「ボーリングもやったことないのよね」
「任せてよ、どうせだったらチーム戦するか? 四人いるし」
駿がそう提案してくる。駿からすれば、氷岬とチームを組みたいのだろう。その思惑に乗ってやるとするか。
「そうするか。じゃあ、俺は渚と組むわ」
こうしてペアが完成する。それぞれ自分に合った重さのボールを選び、運んでくる。
「じゃあトップバッターは俺か」
俺は立ち上がると、構える。駿のことを思えばわざと負けてやるのがいいのだろうが、だからといってガーターばかり投げ込むわけにもいかない。あからさますぎるからな。ここは適度に真剣にやって負けるのが理想的。
だが、ボーリングでガーターを狙わずにわざと負けることなんて可能なんだろうか。意外と難しいな。
ガーターに落ちないように意識したら、どうしても真ん中付近を狙うことになってしまう。俺の第1投目は8本を倒した。もう変に負けに行くのも馬鹿らしいな。渚にいいところも見せたいし。真面目にやろう。
そう決めた俺は2投目で残りの2本を倒し、スペアを取る。
「おーやるじゃん、拓海―いきなりスペアとはな」
「凄いね、拓海くん」
「上手いのね、君。ちょっと驚いたわ」
三者三様、それぞれの反応を見せる。一応運動神経には自信があるからな。ボーリングはあまりしないとはいえ、感覚としてはわかる。スプリットにさえならなければ、スペアは安定して取れそうだ。
「よーし、次は俺の番だなー」
駿が立ち上がる。腕まくりをして気合を入れている。氷岬にいいところを見せたいのだろう。あとは駿の腕前がどの程度かだが。
「ほりゃ」
駿が第1投目を投じる。ボールは綺麗なカーブを描き、1番前のピンを弾き飛ばしたかと、思うと、その勢いのまま残りのピンも全て倒してしまった。
「いきなりストライクかよ」
「まあなー、俺、ボーリング大得意なんだわ」
「先に言えよ卑怯者。これじゃ気遣った俺が馬鹿みてえじゃねえか」
「何の話だ?」
「……なんでもない」
駿はボーリングが相当得意なようだ。その表情は自信に満ち溢れている。
「驚いたわ、金子くん。凄いのね、ストライクって生まれて初めて見たわ。ピンが簡単に弾き飛ばされて」
氷岬は興奮気味に目を輝かせている。ボーリングが初めてと言っていたから感動も大きいのだろう。
「まあな。氷岬さん初めてだろ。俺が投げ方教えてあげるよ」
駿が鼻を高くしてテンション高めに息巻いている。
「頼もしいわ。よろしくお願いするわね」
氷岬も駿を頼りにしているようだ。
しかし予想外だ。まさか駿がこれほどまでにボーリングが得意とは。まだ第1投目だが、あの様子じゃ大得意なんだろうな。ちょっとムカつく。
「金子くんがあの様子じゃ、私が頑張らないとね」
渚が両手を握ってガッツポーズを作り、気合を入れている。負ける気は毛頭ないようだ。まあ、こう見えて渚が負けず嫌いだなということはなんとなく察しがついている。
「渚はボーリングどんなもんなんだ」
「私は普通だよ。でも、初心者に負けるわけにはいかないよ」
なるほど。ということはこのチーム分けはなんだかんだ理想的だったわけだ。俺もできるだけ食い下がれるように頑張るか。
「よし、次は渚だな。頑張れよ」
「うん、負けられないよ」
渚は気合を入れて、ボールを手に取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます