第33話 夜一の決意

 やってきた二人組のレイヤーはモンスレでも可愛いと人気の麒麟装備と影虎装備を着ていた。


 モンスレにしては珍しい露出度が高めのヘソだし装備である。


 レイヤーさんはスタイル抜群、衣装のクオリティーも高くて、ゲームの中から飛び出してきたみたいだ。


 なにより夜一が興奮したのは、二人がちゃんと武器を持っている事だった。


 白麒麟装備は七支刀みたいな大剣で、影虎装備は巨大なカラスが羽を広げたような黒い大弓である。


 そんなのが火竜王の前に現れたら周りは大盛り上がりだ。


 レイヤーやカメコ、一般客まで群がって写真を撮らせてくださいと囲みが出来る。


 夜一もすっかり見惚れてしまった。


「やべー……かっけぇ……」


 思わず声に出てしまいハッとする。


「も、もちろん真昼が一番だけどな!?」


 慌てて言い訳をすると、隣では真昼もうっとり見惚れていた。


「やばい……超格好いい……」


 ぁ、はい。


 似た者カップルという事なのだろう。


「夜一君! ちょっとカメラ借りていい!? あたし、あの人達の写真撮ってきたい!」

「おい! 行ってこい! ばっちり頼むぞ!」


 カメラを持った真昼が突撃し、ビシッとポーズの指定をして戻ってきた。


「ナイスだ真昼! めっちゃ良い写真じゃん!」

「いやいや、モデルさんのおかげですよ~」


 二人で画面を確認しつつ、満更でもなさそうに真昼が言う。


 当然と言えば当然なのだが、真昼だって写真を撮るのは上手だった。


 レイヤーだからポージングについても理解が深いのだろう。


 大剣の先端にレンズを置いたダイナミックな構図や、あえて後ろ向きを取る通な構図など見事な写真だ。


 コスプレ写真の奥深さを思い知らされる。


「はぁ~。あたしも工作が出来たらモンスレコスするんだけどな~」


 巨大な武器を次々構えるレイヤーさんを羨ましそうに眺めつつ真昼が言う。


「なら俺が作る! だから二人でモンスレコスしようぜ!」


 二人を見た時ビビッと来た。


 文字通り、これだ! と思った。


 夜一も真昼もモンスレが大好きだ。


 見た目も派手だし、夏コミでやるならこれ以上のコスはない。


「つ、作るって、夜一君工作出来るの?」

「出来ないけど、調べればなんとかなるだろ」

「なるかなぁ……」

「なるって! 今の時代ネットとかムーチューブ調べればそういう情報出て来るだろ! 俺も真昼に衣装を全部丸投げじゃ悪いし! 頑張って作るからさ! いいだろ?」


 大真面目な夜一の顔を見て、真昼も真剣な表情で頷く。


「……そうだね! 折角夏コミでコスするんだし! それぐらい頑張らないと面白くないよね! あたしも出来る事は手伝うから、二人で頑張ろう!」

「っしゃ! やる気出てきた!」


 その後は二人でどの装備と武器にするかを話しながらのんびり撮影した。


「う~ん。やっぱりどうせ持つなら得意武器かな……。でも大槌とか銃槍とか絶対大変だし。双刀とか片手剣にしといた方がいいかなぁ?」

「遠慮しないで好きなのにしろよ。頑張って作ってみせるから」

「夜一君はどれにするの?」

「迷い所だよな。装備との相性もあるし。見栄えで言ったら大剣だけど、魔砲も捨てがたいし。なんだかんだ片手剣も玄人っぽくて好きなんだよな」

「わかる~! 結構凝ったデザイン多いもんね!」


 衣装の話をしていたら時間はあっという間に過ぎてしまう。


 炎天下の中撮影をするのも思っていた以上に疲れてしまい、後半は普通に遊園地デートを楽しむ事にした。


「あ~。冷房の効いたお店で飲むフラッペチーノサイコー」

「暴力的な甘さが疲れた身体にしみわたるぜ……」


 ランド内にあるムーンバックスコーヒーでお茶をしたらアトラクションのあるエリアに向かう。


 コスプレだと制限があるが、一部のアトラクションは遊ぶ事が出来た。


 例えばお化け屋敷。


「いやああああああああああ!?」

「おいおい真昼、怖がり過ぎ――うぉおおおおおおお!? なんでお化け屋敷にキラーがいるんだよ!?」


 某大人気殺人鬼と鬼ごっこゲームのキャラが徘徊していた。


 向こうも悲鳴をあげていたので、どうやらコスプレだったらしい。


 他にも屋内コースターやゴーカート、普通のゲーセンを堪能し、〆に温室に入って綺麗な花を背景に真昼を撮ってその日のイベントはお終いになった。


「ふ~! 超遊んだ! こんなにエンジョイしたの久々かも!」

「俺は今までの人生で一番楽しかったぜ」


 着替え終わって出てきた真昼を見ると、夜一はなんだか胸が切なくなった。


 コスプレ姿もいいけれど、やっぱりそのままの真昼が一番だ。


「じゃあ、またコスイべ一緒に来てくれる?」

「当然だろ。てか、夏コミ一緒に行くし」

「そうだけど。それ以外でも」

「むしろ俺がお願いしたいし。もっといろいろ連れてってくれよ」

「うん! お友達に紹介したり、大型併せとかもしたいよね! ふぁ~……」


 大きな欠伸を真昼が押さえる。


「楽しかったけど疲れたな」

「……うん。楽しすぎて疲れちゃった」


 正直に言うと、真昼はエヘっとはにかんだ。


「素直でよろしい」

「あたしはいっつも素直だもん!」


 カートをゴロゴロ、二人で帰る。


「帰りはあたしが持つよ~!」

「いいって。眠そうだろ」

「そうだけど……。平気だもん!」

「いいから。格好つけさせろっての」

「夜一君はもう十分格好いいから!」


 そう言われても彼氏としての見栄がある。


 夜一も疲れていたが、平気なフリをした。


 電車に乗ると、隣に座った真昼がカクンカクンと船を漕ぐ。


「起こすから寝てていいぞ」

「やら……ねらいもん……」


 程なくして真昼は寝落ちし、夜一もいつの間にか眠ってしまった。


 そして二人、支え合うように爆睡する。


「お客さん。終点ですよ~」

「ほへ?」

「……ごめん真昼。寝過ごした……」


 二人が家に帰るには、もう少し時間がかかりそうだ。

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夏休み初日に知らないギャルと付き合う事になった話 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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