第26話 初めてのコスイべ
「くぅ~! 可愛い美少女レイヤーの彼女と遊園地でコスプレデート。なんて最高な夏休みだ!」
「夜一君!? 声大きいから!?」
拳を握って感動に震えていると、真っ赤になった真昼に注意される。
そういうわけで翌日、夜一は真昼の夢を正夢にするべく、二人でよみさかランドという遊園地にやってきていた。
「だって初めてのコスイべだぜ? しかも彼女と、遊園地で夏休みだ! こんなのテンション上がるだろ! てか、開園前なのに結構並んでるな。カート引いてる奴らは全員レイヤーか?」
みっちり楽しみたいので二人は朝一で来ていた。
開園までまだ少し時間があるのだが、受付の前にはカートを片手に日傘をさした大勢の女の子が行儀よく列を作って待っている。
男も少しいたが、カメラを持ったおじさんがほとんどで別の列に並んでいる。
撮影専門のカメコというやつなのだろう。
夜一の声が大きかったのか、何人かが振り向いて珍しいものでも見るような顔をした。
「わかったから! ちょっと落ち着いて! ジロジロ見たら失礼だから!」
真昼はそちらを気にしながら、わたわたと手を振って夜一を宥める。
「確かにその通りだ。俺は新参者。迷惑をかけちゃいけないよな。ふー、はー、ふー、はー」
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
でも、レイヤー達がどんなキャラに変身するのか楽しみで仕方ない。
彼女、デート、コスプレ、遊園地、夏休み、ワクワクする要素しかない。
腹の底からウキウキが込み上げてすぐにテンションが上がってしまう。
そんな様子を見てレイヤー達も状況を察したのか、微笑ましそうに笑っている。
「夜一君が楽しみにしてくれるのは嬉しいけど……。ていうか、カート持たせちゃってごめんね」
申し訳なさそうに真昼が言う。
待ち合わせは駅前で、真昼も他のレイヤー女子と同じようにカートと日傘スタイルだった。
そこからは夜一がカートを奪い取り、電車やバスを挟みつつ、ここまでゴロゴロ引いてきた。
「なに言ってんだよ。コスイべ行きたいって言い出したの俺だし、彼氏なんだから当然だろ?」
真昼と付き合うまで夜一は男女平等的思想を持っていた。
女だからという理由でチヤホヤして甘やかすのは逆差別だろう。
それは今でも同じだが、真昼は別だ。
大好きな彼女なのだ。
大事にしたい。
初デートで真昼が倒れた一件は夜一の中でちょっとしたトラウマになっていた。
あんな事は二度と繰り返してはいけない。
夜一の中で真昼=女=繊細、か弱い=守らないと! の図式が出来ていた。
そうでなくとも、ろくに荷物を持ってないのに重そうなカートを引いている彼女を放置したら彼氏失格だ。
いくら頭の中で男女平等をうたっていても、現実に目の前で女の子が大変そうにしていたら助けたくなるのが男である。
真昼の前で良い恰好をしたいという気持ちもあった。
「夜一きゅん……」
そんな夜一に真昼はうっとり見惚れ、周りの視線に気づいて恥ずかしそうに俯いた。
「で、これからどうするんだ?」
「うーん。開園までもうすぐだけど、列に並ぶと離れ離れになっちゃうし……」
悩まし気に真昼が呟く。
レイヤー用の列とカメコ用の列は分けてあった。
あと五分程で開園だが、別々になるのが嫌なのだろう。
夜一も同じ気持ちである。
折角のデートだ。
一秒だって離れたくない。
「受付が始まるまで真昼と一緒に並んじゃだめか? カメコの列は空いてるから、受付が始まってから並んでも余裕だと思うし」
「うーん……。じゃあ、そうしよっか」
彼氏と一緒に並ぶのが照れ臭いのか、レイヤー列をチラチラ見ると、恥ずかしそうにはにかんだ。
そう言うわけで二人で並ぶ。
「女の子ばっかりでなんだか女子校みたいだな」
「そ、そうだね」
ぼそぼそ声で真昼が答える。
顔も俯き加減で恥ずかしそうだ。
「なんだよ。照れてんのか?」
「だ、だって、彼氏と一緒にコスイべとか、恥ずかしいし……」
「嫌だったか?」
急に夜一は不安になった。
真昼もその気かと思って連れてきて貰ったのだが、そうじゃなかったのかもしれない。
レイヤーはほとんど女の人ばかりだし、男子はあまり歓迎されない世界なのかも。
「全然!? 嫌なわけないじゃん!? あたしもこういうの憧れてたし! 嬉しいんだけど、幸せ過ぎてなんだか周りの人達に悪いなって……」
悪い事でもしているみたいにオドオドすると、声を潜めて真昼が言う。
周りを見ると、結構な数のレイヤーやカメコがこちらを見ていて、慌てて視線を逸らした。
どうやらものすごく目立っているらしい。
遊園地でコスプレデートという事で、夜一は普段よりもお洒落をしていた。
某有名RPGとコラボしたスライム柄のアロハにカラフルな鼻緒の雪駄と短パン、鼻先には丸メガネのサングラスを引っかけている。
私服なのにコスプレみたいな格好だ。
レイヤー女子達はビジュアル系や清楚系、地味子に大人のお姉さんと普通にお洒落な子も結構いるが、夜一みたいなタイプは全くいない。
しかも男だから余計に目立つ。
そんなのが彼女連れでイチャイチャしていたら、ものすごく目立つだろう。
とは言え、別に嫌な気持ちではない。
こんな格好をするくらいだから、夜一は結構目立ちたがり屋だった。
「そんなもん気にすんなよ。見せつけてやればいいだろ?」
ニヤリと笑うと、真昼はうっとりして頷いた。
「……ぅん。そうだね」
はぁ~~~~。
四方八方から生暖かいクソデカ溜息が響いた。
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