第25話 夢だったもよう

 なんでどうして夢だと言って!?


 バカバカバカ! あたしのバカ!


 ていうか、なんで目覚まし鳴らないの!?


 お母さん、起こしてくれるって言ったじゃん!?


 完全にパニックになりながら、真昼はとにかく謝った。


 折角二人でコスイべに行ける事になったのに、寝坊なんて最低だ!


 しかもイベント会場は結構遠い遊園地だ。


 今から支度をしてマッハで出ても二時間はかかるだろう。


 ていうか、待ち合わせは開園時間の午前十時だ。


 今は昼過ぎ。


 大大大遅刻の超寝坊だ。


 自分ならブチ切れて帰っているだろう。


 夜一だって帰っているかもしれない。


 むしろ帰っていて欲しい。


 今から行っても合わせる顔がないし、付いた所で着替えの時間を考えたらほとんど撮影できない。


 もう、本当最悪……。


 なんて思っていると。


『落ち着けって! 寝坊ってなんの事だ? 今日は別になにも約束してないだろ?』

『ふぇ? 今日は二人でコスイべに行こうって……』

『……誰かと間違えてないか?』


 困惑したように夜一が言う。


『ま、間違えてないよ! 昨日学校帰りにゲーセンに寄って、その時に約束したじゃん! 夜一君がクレーンゲームで新しいミミさんのフィギュア獲ってくれて……』

『はぁ? 学校って、今夏休みだぞ?』

『……ほぇ?』


 冷静になると、真昼は自分が完璧に寝ぼけていた事に気付いた。


 そういう夢を見ている途中に携帯が震えて起きて勘違いしたらいい。


 ……ヤバい。


 ……恥ずかしすぎる。


『……もしかして、寝ぼけてるのか?』

『うぁああああああ!? ごめん夜一君! 今のは忘れて! 昨日の撮影会が楽しすぎて、夜一君とイベント行けたらいいな~とか思って寝たの! そのせいでわけわかんない夢みちゃったの!?』


 なんでどうして!?


 そりゃ夢だと言ってとおもったけれど!


 本当に夢だったとか意味わかんない!?


 いや、夢でよかったけど……。


 なんだかすごいがっかりだ。


 コスイべの約束もミミさんフィギュアも夢だったなんて……。


 ……がっくし。


 携帯を片手に真昼はうな垂れた。


『あははははは! なんだよそれ! 面白過ぎだろ!』

『うぅ……、そんなに笑う事ないじゃん! リアルな夢だったんだよ!? 夜一君のラインで起きたからびっくりして勘違いしたんだもん! 寝てる途中に起こされたらそういう事だってあるでしょ!?』


 恥ずかしすぎて真昼は逆ギレした。


 だってこんなの恥ずかしすぎる。


『ははは、悪かったって! でも、安心したぜ。俺はてっきり、二股でもされてるのかと思って焦ったっての!』

『ふ、二股ぁ!? なんで!?』


 付き合ったばかりだが、真昼は夜一一筋だ。


 二股なんてそんなサイテーな事、絶対にしない。


 少女漫画だってドロドロ系よりもイチャラブ純愛系が好きなのだ。


『なんでって、約束もしてないの寝坊したとか言われたら勘違いするだろ? あーびっくりした。脅かすなよな』

『あたしは夜一君一筋だもん! 二股なんか絶対しないもん!』

『悪かったって。別に疑ってるわけじゃないから。真昼は可愛いから、ちょっと不安になっただけだ。そんなに怒るなよ』

『お、怒ってないよ! 誤解して欲しくないだけ! あたしは夜一君だけが好きなんだからね!』


 言ってから、なに言ってるんだ!? と恥ずかしくなる。


 まだ頭が寝ぼけているらしい。


 でも本当の事だ。


 勘違いでも浮気女なんて思われたくない。


『俺もだよ。疑ってごめんな』

『ううん……。あたしこそ、寝ぼけててごめん。わけわかんないよね……』


 結局の所ただのバカだ。


 恥ずかしすぎる。


『てか真昼、そんな夢見るくらい昨日の撮影会楽しかったのか?』

『……だって、レイヤーだし。彼氏と一緒に撮影会とか、夢みたいじゃん……』


 しかも夜一はかなり乗り気で、ちょっと撮り方を指導したら、もっと教えてくれ! と目をキラキラさせながら聞いてくる。


 それで教えてあげたら、『すげぇ! 真昼プロかよ!』とか言って褒めてくれた。


 こんなの、レイヤー界では一般常識なのだが。


 でも、大好きな彼氏に褒められたら嬉しい。


 大好きな彼氏が頑張って作った衣装のコスプレを一生懸命可愛く撮ろうとしてくれる。


 こんなの、レイヤー女子としては幸福の極みだ。


 これなら夜一をこちら側に引き込む事も可能かもしれない。


 どうやって誘おうか。


 もうちょっと手順を踏んだ方がいいだろうか。


 いきなりコスプレはハードルが高いから、まずは見学がてらカメコだろうか。


 むしろ、最初から同じジャンルのコスプレをしてしまった方がいいかもしれない。


 夏休みだし、二人で衣装を作るのも悪くない。


 会場はどこがいいだろうか。


 折角だし、遊園地がいいな……。


 なんて事も遅くまで妄想していた。


 そりゃあんな夢も見る。


 と、不意に夜一が黙った。


 なに急に!?


 変な女だって引かれちゃった!?


 そう思って不安になっていると。


『……なぁ真昼。実は俺、昨日真昼のコスプレ撮ってて、興味が出たって言うか……。また撮らせてくれたら嬉しいんだけど……。他にも衣装持ってるみたいだしさ……』

『ふぁっ!?』


 変な声が出て、思わず真昼は口を塞いだ。


 え、なにこれ? 都合よすぎない? 


 もしかして、まだ夢を見てる?


 そう思って真昼は思いきりほっぺを抓った。


『いぎぃ!?』


 やりすぎて悲鳴が出た。


『真昼!? どうした!?』

『な、なんでもない! ちょっとしゃっくり!』


 どんなしゃっくりだ。


『本当か?』


 夜一も怪訝そうだ。


 普通に言えばいいのに、なんで誤魔化してしまったのか……。


 ともかく!


『そんな事よりコスプレの話! あたしは全然オッケーだよ! むしろ大歓迎だし! 夜一君が良かったら、イベントでも撮影会でもどこでも連れてってあげる! あれだったら衣装も作るよ! なんのキャラがいい? あぁでも、衣装の寸法測るのに一回お家に来て欲しいけど』


 ここぞとばかりに畳みかける。


 だって、かっこいい彼氏がコスプレに興味があると言い出したのだ。


 このチャンスを逃す手はない。


 そりゃ思わず早口オタクにもなるだろう。


『ストップストップ! 飛躍しすぎ! 俺が興味あるのは撮る方! 可愛い真昼のコスプレを色々撮らせて欲しいんだよ! 着る方は別にいいから!』

『え~。夜一君絶対似合うと思うのに。二人でお揃いのコスプレしたら絶対楽しいよ?』


 ちょっと無理やりかなと思いつつ、真昼はダメ元でプッシュした。


『まぁ、興味はあるけど。衣装作って貰うとか申し訳ないし、時間もかかるだろ? それはまた今度って事で。初心者だし、まずは撮影班からはじめたいと言うか』

『ちぃっ』


 でも、結構いい線行ってそうだ。


 イベントに連れて行けば羨ましくなって夜一も着たくなるかもしれない。


 当の真昼がそうだった。


 友達と遊園地に遊びに行ったらたまたまコスイべをやっていて、こんな世界もあるんだ! と興味が出たのだ。


 なんにせよ、夜一がコスプレに興味を持ってイベントに来てくれる。


 今の所はそれだけでも十分だろう。


『夜一君がいいならあたしはいつでもいいけど。場所とか日程とか希望ある?』

『流石に今日は無理だけど、明日以降ならいつでも。真昼に会いたいし、早い方が嬉しいけど、あんまりデートばっかりしてたら大変だし、真昼のタイミングに合わせるよ』


 はぅん! あたしの彼氏、優しスギィッ!


 うっとりして、真昼は胸を押さえた。


 真昼だって夜一に会いたい。


 昨日あんなに一緒にいたのに、こうして夜一の声を聞いていると、また胸が切なくなって会いたくなってしまう。


『あたしだって会いたいもん! すぐに行けそうな良い感じのイベント探しとくね!』

『マジか! サンキュー真昼!』


 ニコニコ笑顔が目に浮かぶような声で言うと、夜一は恥ずかしそうに聞いてくる。


『……それで真昼。ミミさんの他には、どんな衣装を持ってるんだ?』


 なんだかちょっとエッチな感じがして、真昼は笑ってしまった。

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