第16話 共通の趣味

「ふぅ~! 美味かったぁ~! 真昼の母さんのカレー美味すぎだろ!」


 ごろっと大きな牛肉が入ったトロトロのビーフカレーだ。


 お店で出て来てもおかしくない味だった。


 真昼にもすすめられ、ついついおかわりまでしてしまった。


「嬉しいけど、なんか嫉妬。今回は掃除とかで時間なかったけど、あたしだってちょっとはお料理出来るんだから。次来る時はあたしのカレー食べてよね!」


 むぅっと真昼が頬を膨らませる。


 全然イケてるギャルっぽくないそんな表情が、夜一は結構好きなのだった。


 ギャップと言うか、真昼の子供っぽい人柄が表れているようで可愛い。


 まぁ、勝手にそう思っているだけなのだが。


「片付けちゃうからちょっと待ってて」

「いいって。俺が洗うよ」


 真昼が下げようとした食器を先に奪う。


「お客様だよ?」

「ご馳走になったんだ。それくらいさせろよ」


 あんな美味しいカレーを二杯もご馳走になって、ケーキくらいじゃ釣り合わない。


 それに、真昼の前で良い恰好をしたかった。


 真昼の前で良い恰好をしておけば母親にも伝わり、そこから父親にも伝わるだろう。


 一石三鳥だ。


 今後も真昼と遊んだり家に遊びに来させて貰う為にも、しっかり布石を打っておかねば。


 そういうわけで、遠慮する真昼を説き伏せて皿洗いをした。


 とは言え、普段から皿洗いをやっているわけじゃない。


 こんなもの誰でも出来るだろうと思っていたが、以外に難しい。


 滑らないように気をつけたり、泡が残らないようにしっかり洗おうとすると、思ったよりもモタついてしまう。


 横で見ている真昼も心配そうで、口を出したそうにうずうずしている。


「……ごめん。格好つけた。普段はあんまり、皿洗いとかしないんだ……」


 家の手伝いを全くしないわけではない。


 風呂掃除や庭の草むしりみたいな力仕事は夜一の分担である。

 

 だが、そんな言い訳をするのは男らしくない。


 ……でも、格好つけようとして逆にダサくなっちまったなと夜一は後悔した。


「ううん。夜一君にも苦手な事があるんだって安心しちゃった」


 なぜは真昼は嬉しそうだった。


 しょんぼりする夜一を、可愛いものでも見るような目で見ている。


 なにを買い被っているのか知らないが、夜一は別になんでも出来るスーパーマンじゃない。


 大体、赤点を取って補習に出ているような男だ。


 苦手な事の方がずっと多い。


 ともあれ真昼は、夜一と入れ替わってあっと言う間に洗い物を終わらせてしまった。


「流石です」

「伊達にお手伝いしてませんので」


 パチパチと拍手する夜一に、真昼は得意げに片目を瞑った。


 気障な仕草に、二人同時に吹きだした。


「で、どうする?」

「……えーと」


 真昼の目が困ったように泳いだ。


「さては、何も考えてなかったな?」

「だってぇ! 掃除でいっぱいいっぱいだったんだもん!?」

「そんなに散らかってたのか?」

「ち、違うもん! その、あの、うぅ、とにかく、色々大変だったの!」


 まぁ、夜一もいきなり彼女を部屋に呼ぶとなれば慌てただろう。


 だから、これ以上野暮な事は聞かない事にした。


「ちなみに、俺の部屋は結構散らかってるけどな」

「本当? じゃあ、帰ったら画像送ってよ」

「やだよ恥ずかしい」

「いーじゃん! あたしは部屋に入れるんだよ!」

「わかったよ。覚えてたらな。で、どうすんだ?」


 話を戻す。


「う~」


 真昼が一休さんみたいに頭を抱えた。


「別に俺はなんでもいいぞ。テレビ見るでも映画見るでもゲームするでも。真昼が眠いなら昼寝でも別にいいしな。ふぁ~」


 食ったら夜一も眠くなってきた。


「夜一君だって眠いんじゃん」

「当たり前だろ? 俺だって楽しみで寝れなかったっての」


 だって彼女の家に行くのだ。


 親がいると思っていたし。楽しみ&緊張だ。


 妹に起こして貰わなかったらまた寝坊していただろう。


「お昼寝はやだ! 折角来てくれたのにもったいないもん!」

「じゃあ、映画は?」

「……今見たら絶対寝ちゃう」

「確かにな」


 夜一の鼻が笑った。


 よっぽど面白い映画でなければ、三十分ももたないだろう。


「ならゲームか?」

「う~……」


 ふくれっ面で真昼が唸る。


「ゲーム嫌いか?」

「……嫌じゃないけど。夜一君はどうなの?」


 真昼は急に歯切れが悪くなった。


「俺は結構するけど」

「本当!」


 と思ったら、急に食いついてきた。


「本当だけど、なんだよ急に」

「どれくらい?」


 ぐいぐい聞いてくる。


「どれくらいって言われても。まぁ、結構オタクな部類だと思うけど。パソコンのゲームとかするし、ゲーム実況とかも見るし」


 隠しても仕方ないので正直に言った。


 というか、夜一的には別にそんなのは恥ずかしい趣味じゃない。


 それで馬鹿にするような相手ならそこまでだと思うし、真昼はそんな子じゃないという気がした。


「そ、そうなんだぁ……」


 なんだか真昼はホッとした様子だった。


 それだけじゃなく、急にソワソワしだした。


「あ、あたしもその、ちょっとだけオタクっぽい所があるんだけど……って言ったらどうする?」

「いや、どうもしねぇけど。いや、するか」

「やっぱ今のなし!?」


 焦り散らかす真昼を見て、夜一は笑った。


「違うって。趣味が合うから良いと思うって言いたかったんだ」


 それを聞いて、真昼はドッと溜息をついた。


「もう! 脅かさないでよ!」


 ぽかぽかとへなちょこパンチを放ってくる。


「そんじゃ、真昼さんのオタク具合を見せてもらいましょうか」


「ぁぅ……そ、そんなにすごいオタクってわけじゃないから! 普通くらい! ……より、ちょっとだけオタクなだけ! 夜一君と同じくらい!」


 ニヤリとする夜一に、真昼は必死に弁解した。


 それが本当なら、かなりのオタクという事になるが。


 内心でそう思いつつ、夜一もそこまでは言わなかった。

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