第15話 もうやだ、好きすぎ
真昼だってそんなつもりは全然なかったのだ。
夜遅くまでオタク部屋の隠ぺい工作をして、今回は絶対に寝坊しないよう家中の目覚ましをかき集めて万が一の時は母親に起こして貰うようお願いした。
やっぱり真昼はウキウキで眠れずに、母親に起こして貰う羽目になった。
あぁ、ありがとうお母さん! 持つべきモノは頼れる母だ!
なんて感謝したのも束の間、おめかしした母親は言うのである。
「お母さんお友達にカラオケ誘われちゃった。お昼にカレー用意してあるから、夜一君によろしくね~」
いやいや、お母さん!?
娘が出来たばかりの彼氏とお家で二人きりになってもいいの!?
「大丈夫でしょ? 真昼ちゃんはそんな子じゃないし。夜一君もしっかりしてそうだったし。お母さんは二人を信じます。というわけで、ばはは~い」
そんな事よりカラオケだという感じで行ってしまった。
いや、母親の言う通り、真昼だってそんな気はまったくないし、夜一だってそんな子ではないと思う。
でもあたし達、高校生なんだよ!?
なんか弾みで万が一って事もあるでしょ!?
ていうかそれじゃあたし、夜一君にエッチな子だと思われちゃうよ!?
そうは言っても母親を引き留めるわけにはいかない。
夜一にこの事を話したら、じゃあ今度にしようと言われそうだ。
それはやだ!?
どうしても今日会いたい!
会いたい会いたい会いたい会いたい!
別になにもなければいいんだもん!
ていうか、そんな事しないもん!
そんな気持ちで玄関の前に張り付いて待っていたのだった。
一時はどうなる事かと思ったが、ちゃんと事情を話したら夜一は納得してくれた。
「……そうか。まぁ俺も、親御さんがいると緊張するから、ある意味ではよかったのかもな」
真昼の大好きなシニカルな笑みを浮かべると、窮屈そうにシャツのボタンを外す。
なにそれ! エッチじゃん!
男子諸君には分からないかもしれないが、そんなさり気ない仕草に真昼は萌えた。
「で、どうする?」
「とりあえずお昼にしよっか。実はお腹ペコペコで」
勝手知ったる我が家である。
文字通りのホームなので、なんとなく気が楽だ。
昨日の失点を取り返す為にも、今日はこちらからリードしたい。
「先に食っててよかったのに」
「やだよ! 折角だもん! 夜一君と一緒に食べたいじゃん!」
「気持ちは嬉しいけどよ……」
照れ臭そうに頬をかくと、夜一はじっと真昼を見つめた。
トゥンク。
真昼はこれに弱い。
デフォルトだと、夜一はどこかふざけたような、斜に構えたような目をしている。
でも、こうして真剣な顔で見つめている時は、少女漫画の主人公みたいに格好いい目になるのだ。
そのギャップがたまらない。
少し怖いけど、そこがまたいいのだ。
「な、なに?」
「具合。どうなんだよ。ちょっと顔色悪くないか?」
「うっ」
言われるんじゃないかと思っていた。
二日連続で寝不足だ。
正直ちょっと眠いし、頭も少しぼんやりしている。
でも、そんな事言ったら夜一が帰ってしまう。
クソ暑い中わざわざ来てくれて、お土産にケーキまで買ってきてくれて、それで帰らすなんて絶対ヤダ!
……でも、もう嘘はつきたくない。
どうせバレるし、バレなくても夜一に嘘をつきたくない。
二つの気持ちに押しつぶされて、真昼は泣きそうになった。
「……そんな顔すんなよ。怒らねぇから」
なぁ? とお道化るように笑う夜一はイケメンすぎた。
「……しゅき」
そんな言葉が漏れてしまって仕方あるまい。
夜一は「なんもしてねぇだろ!?」と照れていたが。
それで真昼も白状した。
オタ部屋の事は言えないので、掃除とドキドキで眠れなかったと言っておく。
「……大丈夫なのかよ」
やっぱり夜一は心配そうだった。
もう、ちょっとでもなにかあったら遠慮して帰ってしまいそうだ。
「それは大丈夫! ちょっと眠いだけだし! 最悪眠かったらお昼寝するだけだし! お家なんだから心配ないでしょ?」
だからお願い帰らないで! そんな気持ちを込めて目で訴える。
「……まぁ、真昼が平気なら俺はいいんだけど」
どこかホッとしたように夜一が言う。
やっぱり夜一も一緒にいたかったのだろうか?
そう思うと、真昼もホッとした。
きゅるるる。
二人同時にお腹が鳴った。
「……じゃ、準備するから食べよっか?」
「手伝うよ。なにすりゃいい?」
「いいから夜一君は座ってて」
「そういうわけにはいかねぇだろ」
恥ずかしい。
これじゃまるで夫婦じゃないか。
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