第48話 目指せ繊維の町


魔王様の所から帰ってくると、また行商が来ていた。

彼らは綿花の種を置いて行ったらしい。

綿花は日当たりがよく、水はけと風通しのよい場所で育てる。


その条件は全く問題ない。問題があるのは気温と肥料だ。

綿花は暑さには強いが寒さには弱い。

なのでここじゃあ無理かもしれない。

それに肥料が必要だ。

干した鰯、いわゆる干鰯を肥料として使っていたというのを聞いたことがあるだろうか。江戸時代の話だったと思うが、贅沢な肥料だ。


しかし、ここは山の中だぞ。鰯なんか居るワケない。

じゃあわざわざ海から干した鰯を食べるわけでもないのに運んできてもらうのか?うーむ。


…まあとりあえず暖かい時期に堆肥いっぱいで植えてみて、駄目だったらどこかで育ててもらって買い取ろう。



それよりは問題なさそうな麻をいっぱい育ててみよう。

その辺にあった麻っぽい草を回収した。

うむ、見た感じは麻だ。大きな麻だ。うーむ。


麻は温暖な土地から寒冷地まで生えている。まあまず問題ないだろう。

日本じゃ今は栽培自体が禁止だが、大昔から育て、活用してきた。

俺だってハッパを見ればどれが麻かくらいは分かる。


麻系統を育てるとどうしてもちょっとやばいことをしているような気もするが、なあに。昔は麻で服を着て、綱を編んで神事を行っていたのだ。大きな麻だってなんてこたあない。


だが大麻と苧麻と青苧、俺が見分けつくと思う??つくわけねえべ。

これが麻だって分かっただけで褒めて欲しい。

ましてや芋みたいな字の付いてる麻なんて…大丈夫かな?

魔族のみんなビクンビクンしないだろうな?



なんて少しビビりながらも麻を育てた。

余計な枝葉を斬ってまっすぐに育て、収穫したら真ん中の茎だけを採り。

皮を剥いでキレイキレイして乾燥したら後は細かく裂いて糸にして…なかなか大変だなあ。

まあやるのは暇な時期のスタッフの皆さんだ。

俺は一回お手本を見せたら、後は指示をするだけでいいのだ。


「というわけでこんな感じで糸にします。糸にしたら後は織機を使って布にします。OK?」

「はあ…」


ポカーンとしているのは領民とマリアを含むメイドさんたち。

大丈夫か?


ここは領主館から徒歩3分くらいの所に新たに作られた大きな工場だ。

ヴェルケーロ地方で一番大きな建物だろう。

ここが領主の館だと勘違いしても仕方ない…というかそう見える。

領主館も立派なつくりだけど工場の方がだいぶ大きいんだよな…まあしょうがない。



「皆、だいじょうぶか?えーと、これを手が空いている女性陣や怪我をして動けない男衆にやってもらおうと思う。完成して布になったらかなり高く売れる。わかった?」

「はあ…いくらでうれるんだべか?」

「生地の大きさにもよるが、1m程度の長さで10万ゼニーくらいかな?最低でもそのくらいにはしたい。質が良ければ大魔王様に献上してもっと高い値段で売れるようにする」

「そんなに!」


そんなに、だ。

質問してきたのはベロザの妹のベリスちゃんだ。

彼女を含めて皆が着ている衣類はいわゆる中古の中古。

それから素人が獣から剥いでなめした革製品なんかだ。


だが、これから作ってもらう布は1級品を目指す。当然だ。

やるならナンバーワンを目指さないでどうするのか。


「と言うわけでまずは糸を作る…前の材料を作るところからだ。幸いにも俺の魔法を使えば草はガンガン育つ。最初はそれでいいだろう。だが後々のことを考えると、自分たちで育て、収穫して糸をつむいだり機織をしたりしないといけない。そうだろ?」

「そうでございますな」

「と言うわけで大工衆にはこれから糸車やら織機やらを作ってもらう事になる。暫く同じ事をやって何台も作ってもらう事になるからな。頼むぞ」

「応!」


いい返事だ。

大工のゲインとその弟子たちはこっちに来てからずーっとひたすら農地を開墾して森からいっぱい産出される木材から家を建てまくっていた。

そして最後に今話している工場を建てた。


工場ガワを建てれば次は中身だ。

棚から机、それから大事な糸車に織機。


いずれは生地を使って服まで作りたいが、とりあえずは生地まででいい。

作物で皆の腹を膨らませたら、後は何もない辺境のヴェルケーロを繊維の街にしよう。

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