第34話 解体祭り


収穫物を持って何食わぬ顔をしてピクニックに合流。

どう考えてもトイレにしては随分時間はかかったと思うが、アホリスは楽しそうにお弁当を食べていた。護衛達と遊んだあと、お弁当タイムになったんだって。


食べているのはサンドイッチだ。

と言っても卵サンドは無いし照り焼きサンドもないしカツサンドもない。

あるのはお野菜サンドイッチだけ。

つまりは夏野菜サンドだ。



サンドイッチと言っても食パンのように真っ白なパンではなく、茶色っぽいパンのサンドイッチ。

真っ白いパンは甘くて美味しいがほとんど栄養がない。それを考えると少々硬かったり甘味が足りなくてもどうって事はないのだ。と言うかこっちの世界じゃふつうだし、味の方もまあ…悪くない。



俺としてはカツサンドが大好きなのでぜひ作れるようになりたいものだが、トンカツもまだホイホイ作れるほど豚は増やせていないし、何より揚げ物に必要な油がない。

トンカツには豚肉、小麦粉、卵、パン粉と必要になるが、なにより大量の油を使って揚げる。

揚げ焼きみたいにするって手もあるが、やっぱり大量の油にドボンと行きたい。


食用の油と言えば代表的なのは菜種油、コーン油、ゴマ油、それから椿油に動物性の油脂と色々あるが、今のところ確保が一番簡単なのは動物性の油…日本で言うところのラードや牛脂のことだ。


でもその一番簡単な動物性の油でも採るのが大変だ。

野生の獣はそれほど脂肪分を蓄えていない。臭みがあるかと言えば肉には独特の臭いが多少あるものの、脂にはそれほどない。


ふむ。この獲った熊から熊油を採取して熊天ぷらを作ってみてもいいかも知れん。

あるいは熊油で作った熊フライ。うーん、混沌の料理名だ。


なあに、『自分から絞った油で揚げもらって美味しく食べられる』なんて熊も喜んでいるだろう(超絶サイコパス思考



その後、帰りに川に寄って軽く釣りをして帰った。

釣りたての魚を串に刺して焚火であぶって食うのだ。クソ美味かった。

釣果はどうだったかって?アシュレイとマークスはいい感じで後のメンバーはほとんど坊主だ。

勿論俺もだ。





帰ったらまず初めに行くところは猟師のグレンのお家だ。

アシュレイとアフェリスは領主館で風呂に入っているが、俺はそれよりもっと肉の方が気になる。

孤児たちの年長組も集めてこれから解体祭りだ。

じゃあ解体祭りはじめるから仲のいい子で二人組作ってー!


なんてことはやらない。

だいたい俺がソロになっちゃいそうだしな…


「坊ちゃん、狼を出してもらえませんか」

「ん、うむ。」


預かったままだったカバンからホイホイ狼を出す。

10頭出したところでストップがかかった。そりゃそうだ。この狭い小屋にはもう置く場所もない。


「…外に出すか」

「そうですね。迂闊でした」


グレンが使っている猟師用の物置き小屋は冬でも快適に解体できる素敵ゾーンだ。

水はすぐそこに井戸があるし、小屋でぶちまけた水も傾斜を利用して外に排出されるようになっている。とは言え血なまぐさい臭いはどうしても残るが…真冬に外で解体作業をするよりは臭いほうがまだマシだ。


でも今回は量が量なのでしょうがない。でかい熊も多分小屋いっぱいになるからお外だろうな。

というわけでもう一度袋に戻して外に並べる。地べたに置くことになると思ったら戸板のようなものを持ってきた。この上に置けって事だな。


4本足の生き物の解体作業は言ってしまうとどれも似たようなものだ。

毛皮は自分たちの防寒具になると思えば年長組のガキどもも慎重に作業を進める。

俺も1体分手伝う。

…当然ソロ作業だ。


俺とグレンだけがソロ作業で後の孤児たちとグレンの猟師弟子たちは二人組ペア

そこはかとなく感じる孤独感もグレンと一緒?のソロ作業だと思えば熟練者だけが一人で作業することが許されているような気分になる。そうだろ?そう言う事にしといてくれよ!


さて、俺の担当は小さめの鹿になった。

頭と内臓は既に向こうで除去してある。

この作業をしなければ狼がここまで増えることはなかったんだろうか?

まあでも現地でやるよな普通。重いし。

こんないいカバンがあるって教えてくれたら帰ってから作業すりゃいいんだけど。


ナイフで皮を切ってゆっくり皮と筋肉の間の脂肪層を剥離していく。

メスみたいによく切れる刃じゃないが、ウチの鍛冶屋のゴンゾに鍛えさせた鍛造のナイフだ。

ぶっちゃけ鋳造でも鍛造でも切れ味自体は砥ぎで決まると思うから大差ないような気はするが…まあいずれ日本刀を作るための修行だと言って鍛造させた。

この魔法のある世界で日本刀が本当に強いかどうかは置いといて。

これはただの趣味だ。



さて、解体の続きだ。

ナイフは素晴らしく良く切れる。

右前脚をクルリと一周して、それから人間で言うところの肘、肩の内側へとスーッとナイフを入れる。

力を入れてじゃなく、ナイフを返して皮だけを切る。次は左前脚、首の所で合流させてまっすぐ下ろし、内臓を取った傷と合流させる。そうして後ろ脚も同様に切って…そして切り目からナイフの裏を使って、時には引っ張りながら鈍的に皮を剥いでいく。案外サクサクと皮がむける。

俺はまだまだ皮かぶって…そこはいいんだよ!




全身の皮をきれいにはいだら後は枝肉にしてそこから部位毎に取り分けるわけだが…まあ俺の作業は皮はいで後ろ足を1本切断したら終わりだ。


「グレン、皮は置いとくぞ。んで足1本もらってくからな。熊はまた明日でいいか?」


当然だが後ろ足の肉だ。

ウデ肉よりモモ肉が美味いに決まってる。


「そうですね。じゃあ俺の分も片付いたので残りは全部出しておいていただけますか?」

「おう」


すでにグレンは枝肉に分けてあり、他のを手伝っている。

狼肉は普通に焼くと硬くてそんなに美味しくないが、煮物にするとそこそこ食えなくもないようだ。

でも俺は日本にいた時に飼ってた犬のイメージがあるから、犬はもちろん狼もあんまり食べたくない。

こればっかりは仕方ないな。まあ追い詰められりゃなんでも食うけど。


俺が狼肉をしげしげと見ていると、グレンの飼い犬…もとい猟犬は生肉をめっちゃうまそうにガジガジしていた。猟犬に生肉やっちゃダメなんじゃ?というかそれ共食いなんじゃね??


突っ込みがあふれる光景だがここは異世界。何でもアリなのだ。

ワンコもそれなりに優秀だったし、気にしないでおこう。


「…じゃあ熊も出すぞ」

「熊はこちらにお願いします」


ポイポイっと空きスペースに残りの狼を出し、グレンが片付けた広いところにデカい熊を出した。

周囲からくるどよめき。ふふん。

まあ仕留めたのはアシュレイだが、俺がお膳立てしてたんだもん!


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